2025年6月20日。
満を持して、小川哲の代表作『地図と拳』が文庫化されました!
これは単なるフィクションではありません!
読後に心に残るのは、まるで映画を「三本」観終えたかのような重層的なドラマ、そして、まるで自分自身が満州という歴史の地に立っていたかのような、奇妙な臨場感でした。

なんか難しそうな本じゃない?

日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀を描いた歴史×空想小説でした!
小川哲という作家について
まずは作者・小川哲(おがわ さとし)について簡単に紹介しましょう。
1986年、千葉県生まれ。東京大学教養学部を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科に進学。
2015年に『ユートロニカのこちら側』でデビューし、以後、『ゲームの王国』(日本SF大賞、山本周五郎賞)、『嘘と正典』、『君のクイズ』(本屋大賞ノミネート)、そして本作『地図と拳』と、着実に日本文学の第一線に立つ存在へと成長してきました。
彼の作風は、「知」の徹底した追求と、「物語」としての魅力を高次元で両立させている点にあります。
本作『地図と拳』でも、その持ち味が遺憾なく発揮されており、「建築」や「歴史」に詳しくなること間違いありません。

建築って何ぞや?という概念が丁寧に描かれています。たかが地図や建物と侮るなかれ!そこには人々の歴史という時間が形作っていたのだ!
※文庫化にあたって上下巻の2巻に分かれていますね。
参考文献149冊、まるで卒業論文か──歴史を「書く」覚悟
『地図と拳』を読み終えて、巻末の参考文献リストに目を通したとき、私は思わず息を呑みました。
その数、149冊。
資料の一覧だけでも小一時間眺めたくなるほどで、「これはもう大学の卒業論文では?」と錯覚するほどの精密さを感じます。
だけど、その情報量が物語を堅苦しくすることはないです。
むしろ、読み進めるうちに、ページの裏に息づく歴史の実体が、徐々に読者の周囲を包み込むように現れてきます。
時代背景は、日中戦争の前夜、そして満州国建国のころ。
日本人が「夢」と「野望」と「欺瞞」を抱えて大陸に渡り、「国家」という大義のもとで「地図」を作り、「拳」という暴力でそれを正当化していく過程が、凄まじい熱量で描かれている。

もうね。帯の文が美文なんです。
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
この文章から、ロマンを感じ取り「地図と拳」を手に取りました!
地図とは何か?──国家と個人の思惑が交差する場所
タイトルにある「地図」と「拳」は、物語全体を貫く二つの柱です。
物語の中心にあるのは、満州において都市を開発し、インフラを整備し、そして地図を描くという、ある意味では地味な作業ですが、この地図を描くというのは、極めて本質的な営みでした。
地図には、国家の思惑が透けて見えます。
その地図を作製した個人の想いも描かれているというのは自分にとっては想定外でした。
国家の暴力が「拳」として描かれることで、読者に生々しい実感を与えてくれます。
「拳」が地図を描いていく。
理想郷を作るのは「地図」と「建築」の役割です。
君たちの後ろには、過去という名の一本道がある。君たちの前には、未来という名の交差点がある。人間は常に直進するとは限らない。右折をしたら誰が待っているか。左折をしたらどこにたどり着くか。未来という白紙の地図を存分に旅して、その景色を可能な限り正確に描いてほしい。
小説の中の文章ですが、様々な未来を自分自身で作成して地図を完成させてほしいという読者に込めたメッセージが見え隠れします。
都市計画という夢。
地図という統治の道具。
そして、その裏側で犠牲になっていく個人たちの物語。
この作品は、「個人」と「国家」が交差する地点としての“地図”という概念を、ここまで鮮やかに、かつ痛ましく描いた稀有な作品だと思います。
ドラマチックすぎる人生たち──映画を三本観たような読後感
登場人物たちの人生がとにかく濃い。感情が揺さぶられる。
軍人、建築家、理想主義者、泥棒、そしてただ時代に翻弄されるだけの市民。さまざまな立場の人間たちが、自らの信念と葛藤を抱えながら、壮大な歴史の流れに身を投じていく。
その一人ひとりの描写が、まるで映画のようできちんとエンターテイメント化していて、人間の誇りと欲望が衝突し、友情と裏切りが交錯し、理想と現実のはざまで揺れる心が丁寧に描かれている。
ラストにたどり着いたとき、、三本の長編映画を一気に観終えたような満足感を得ることが出来ました。
だって約700ページもあるんです。

700ページは長い!

鈍器本と呼ばれるくらい分厚い本でした。文庫本では上下巻に分かれています。
建築と満州──ディテールの異常なまでのこだわり
『地図と拳』を読み終えたあと、建築に興味が湧いたという読者も多くなるんじゃないかなと思います。
なぜなら、物語には「都市をつくる」というテーマが色濃く流れているからです。
どんな都市を設計するのか。
そこに生きる人々は誰か。
未来をどう想定してインフラを作るのか。
都市計画と建築に対する細かな描写は、建築史の専門書さながら。
そして、舞台となる「満州」についても、観光ガイドでは得られないような知識が散りばめられている。
その描写の豊かさは、「ああ、小川哲は本当にこの時代を“書こう”としていたんだ」と感じさせてくれる。
突然訪れる“少年ジャンプ感”──孫悟空の修行シーンに心が躍る
本作の一部で、孫悟空<ソンウーコン>と呼ばれる人物が修行のような時期を迎えるシーンがある。
これがまるで『ドラゴンボール』の孫悟空のようだと思って自分の中で少年ジャンプ感出してきたなと思ったり間もしました。
熱い。熱すぎる。
敵に勝つため、己の限界を超えるため、知識と肉体を研ぎ澄ませる。
少林寺拳法のような修行場面でどんどん強くなっていくのを見ているのは単純に楽しかったですね。
歴史小説にしては珍しい、この“少年ジャンプ感”。
でもこれが、むしろ作品にリズムを与え、読者の心を熱くさせる最高のスパイスになっている。

やっぱり、「修行して強くなる」このプロセスは万人に受けるようなワクワク感がありますよね
まとめ
『地図と拳』は、歴史小説の皮をかぶった、人間ドラマであり、SF小説です。
小川哲は、この一冊で「地図とは何か」「国家とは何か」「個人はどう生きるべきか」を読者に問いかけている。
満州にいた過去の日本人も中国人もロシア人も芯が強い人ばかりだったんだなぁと現代から覗くと思っちゃいます。
読み終えたとき、もう“地図”をただの紙として見られなくなると思います。
小川哲『地図と拳』文庫版(講談社文庫)──歴史の濁流に呑まれながらも、生きた人々の“地図”を、あなた自身の中に描いてみてほしい。
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