世界99を読みました。
村田沙耶香さんは新刊が出たら必ず読む作家さんの一人です。物語が好きというよりも、村田沙耶香さんが作り出す、世界が刺激的で新しい視点の連続でなおかつ少しグロテスクで狂ってると思いながら、平凡な世界から狂った世界を覗いて楽しむという読書体験をしに本を手に取るという行為をしています。
村田沙耶香さんに求めるのは「刺激」です。
よほど自分が「退屈」で「つまらない」生活を送っているのかのように村田沙耶香さんの創り出す世界に刺激を求めて、エンターテイメントとして楽しむように読書をします。
世界99というタイトルも村田沙耶香がどのような世界を創り出すのかという期待を膨らませるのに値して、早く読みたいと思わせる傑作小説の香りが程よく香ってくるタイトルですよね。
「俺と一緒にカルトはじめない?」でお馴染みの「信仰」ではもっとその世界を深掘りしたかったにもかかわらず、短編で終わってしまい消化不良の読書熱を冷ますには待望の上下巻で900ページくらいあるボリュームは
読みたいという「熱」を覚ますには十分なボリュームであり、期待感が膨らんで本を手にすることが出来ました。
世界99とは?
あらすじも何も読まずに前知識なく、村田沙耶香さんの新刊でタイトルは「世界99」これだけの情報で読書が始まりました。
読む前は世界99っていうくらいだから村田沙耶香さんの考えだすSF世界が99個あって、99個の世界がつながりだす壮大なファンタジーなのかと思いきや、村田沙耶香さんのライフワークである「女性の苦しみ」を丁寧に文章化された1人の女性の人生が描かれていました。
村田沙耶香さんは人間個体からの視点ではなく社会から受ける女性の生きづらさや、どうしても避けられない女性という性だから訪れる偏見というものを見逃さずに文章化するのがライフワークだと思っています。
トリガーアラートとは?
読んでから気づいたのですが、「世界99」はトリガーアラートの記載をしております。
トリガーアラートとはとは、トラウマや特定の感情を呼び起こす可能性のある内容が含まれる場合に、その前に発せられる事前警告のことです。主に、性的暴力、虐待、自殺、差別などのテーマを扱う映画や書籍、SNSなどで、読者や視聴者が不快な感情を抱いたり、不快な経験を思い出したりするのを避ける目的で使用されます。
それだけ、性的暴力、人体についての暴力的描写、差別、偏見、虐待を随所に言語化された作品といえば、読めば確かにそうかもしれないけれども、自分はそこまでトラウマや感情を呼び起こされるということはありませんでした。
世界99あらすじ
性格のない女性「空子」が子どものころからの一生を描写するその節々で女性に対する偏見、差別、社会的に与えられた強制労働、出産という宿命、子育て、料理、家事全般に至るまでの理不尽な事象を細かく描き、すべて架空のピョコルンという動物に負担してもらう世界はどのような世界なのだろう?という思考実験でもあります。
ピョコルンというのはそれぞれのイメージで想像してもらって構わないのでしょうが、4本足で立つアルパカに首のところに「お皿洗いができる」ような手がにょきっと生えているような動物です。
家事だけをしてくれるなら、家政婦さんでもいいじゃないかと思いますが、男の性的な解消への愛玩道具としても使われることで女性を守ることが出来ます。
女性の負担
ピョコルンは現代のほとんどの女性の望む動物なんじゃないかとさえ思えるほど、「女性」というものを「女性」からはく奪していきます。
例えば「男性からの視線」といえばどうでしょうか?犯罪にならないまでも、じっと見てくる視線を顔や胸、お尻や太ももに感じたことのある女性も多いかも知れません。
見られているのが分かるというほど、「男子からの視線」というのは、粘っこく嫌なものだと「女性の方」から聞いたことがあります。その「男性からの視線」という粘っこい罪にもならないような嫌な「業」ともいえる逃れられないものからもピョコルンが愛玩道具になったことで「男性」の性的対象は、「女性」からアルパカと似たピョコルンに移ることによって、逃れることが出来ます。
これはほんの一例であり、女性が背負ったもはや逃れられない「呪い」からピョコルンが負担することでどう世界が変わっていくのか、どう主人公の空子は変わっていくのか。そんな楽しみもあるのが「世界99」の味方の一つともいえるでしょう。
また、女性は社会進出によって社会的役割が増えたといいます。妻、嫁、姑、小姑、妹、姉、娘、母、祖母、恋人、愛人から、社会的に成功する仕事人としての役割も近年増えてきました。女性は役割過多なのです。
ひとつの役割だけならまだしもミルフィーユ状にそれぞれの役割を果たさなければもはや人間として成功しているとは言えないのだと社会的圧力が理不尽にかかってくる。日本の共同体の圧力と国から社会人として成功しなさいという圧力は、女性に対してのあきらかな負担増であるとみんな自覚しましょうデモでも起こしたくなるほどプレッシャーは強い。
社会が自然に求める女性像
なでしこジャパンは男子が成し遂げていないサッカーワールドカップで優勝したことによって、国民栄誉賞を受け取ることが出来ました。国民栄誉賞を受けた人は何か記念の品がもらえるらしいのですが、なでしこジャパンが国民栄誉賞を受賞した際の記念品は、広島県熊野町の「熊野筆」の化粧筆7本セットです。
政治家の方が考えた記念品なのかもしれませんが、この「熊野筆」の化粧筆7本セットには残酷なメッセージが込められています。
「あなたたちはサッカーワールドカップという世界最高峰の大会で最高の仕事をしてきました。最高の仕事をしてきたのだから、次は女としての幸せを手に入れてください」というメッセージです。
男性としての仕事の成績は非常に優秀でした。しかし、次は「女性としての幸せ」も掴んでください。化粧をして「美しく」なって、「女性」としての本分も果たすことを期待します。ということです。
男性が仕事で最高の成績を収めたのならば、そこで人生の成功者のように扱われ、女性が仕事でっ最高の成功を収めたのだとしても「女」としての成功も怠るなと叱咤される。
これぞまさに日本が抱える女性問題の象徴とでもいえる出来事でしょう。
まとめ
世界99では、すべての負担をピョコルンが担当してくれます。ピョコルンがかわいそうになったり、ピョコルンがかわいくなったりしますが、基本的にはすべて女性の声にならない見えない負担というものが、どれほど「重い」ものなのかを知らしめてくれる小説となっています。
もちろん、「退屈」な現実より刺激があり、エンターテイメントとしても読める小説であることは間違いありません。
日本のジェンダー文化は世界99に閉じ込められて、世界で翻訳されて読まれる時にはどのように読まれるのだろうかと日本を恥じたくなるような気もします。
「女性」の一生というのはどのようなものなのか描かれると同時に、すべての人間たちに向けたメッセージも受け取ることが出来ます。
「すべての人間は自分を生かすための奴隷なのだ」といった一文がありますが、説明は不要。まさにその通りです。
人なら見逃してしまう理不尽。
もやもやして言葉にならないものの言語化。
それらすべてが村田沙耶香ワールドであり、「世界99」に閉じ込められている。
ぜひ、狂った正常な世界をご覧ください。




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