国際的な賞であるダガー賞を受賞して一躍有名になった小説「ババヤガの夜」を読みました。

響きからしてパパイヤの育つ南国の物語かと思っていましたが、まったく違います。任侠の世界の話でした。しかもかなりリアリティのある描写が多く文字から凶器と瞬発力がにじみ出る文体です。
読んでみて思いました。これは「賞に偽りなし!」面白い!
なぜなら一行の文章で展開が目くるめく時空と空間を入れ替かえ、物語に疾走感が出ていて読みやすい上に面白い。また人間味ある物語で最後は希望を示してくれる読み応えのある小説だと思ったからです。
この記事ではあらすじ、登場人物、ラスト考察、つまらないとなぜ言われるのか?ネタバレを含みながらも記事を読んだ後から「ババヤガの夜」を読んでも面白い構成になっています。
『ババヤガの夜』のあらすじ
あらすじ
暴力を唯一の趣味とする少女・新藤依子が、関東屈指の暴力団「内樹会」の会長にその腕前を見込まれ、愛娘・尚子のボディーガード兼運転手に抜擢されるところから始まります。依子は幼少期から祖父母に武闘教育を受け、強靱な肉体と闘争本能を内に秘めています。一方、尚子は甘やかされた令嬢に育ちますが、父の命で許嫁との結婚まで体に傷を付けぬ“花嫁修業”の日々を送っています。
最初は反発し合う二人ですが、ある出来事をきっかけに徐々に絆を深めていきます。依子を組織に引き入れた在日朝鮮人幹部・柳も登場し、陰謀めいた謎が残酷さと救いの物語に仕上げられています。
緊迫した任侠世界を舞台に、2人の女性は希望と人間ドラマを携えて疾走していくシスターバイオレンス小説です。
登場人物一覧(尚子・柳など)
『ババヤガの夜』には血と暴力に彩られた人物が登場しますが、主に依子と尚子の二人を軸に展開します。以下に主要キャラクターを挙げ、役割や性格、物語での重要性をまとめます。
新道依子
22歳の主人公。
気性が荒く暴力を好む女性。
花屋配達のアルバイトをしながら喧嘩に明け暮れていた。ヤクザに殴られて気絶後、内樹会会長・源造にその武闘力を買われて尚子のボディガード兼運転手に。物語を駆動するアクションの中心人物。
筋肉で膨れ上がった太もも、鍛え上げられた腹筋。その生まれ持った力を持て余して「暴力」で発散したいと思っています。漫画でいえば「グラップラー刃牙」のような外見の登場人物のイメージで読みました。
内樹尚子
内樹会会長・源造の一人娘。
白浜女子短大の学生。
最初はおとなしく人形のようだが、内面では環境への葛藤を抱える。
ヤクザ社会で生き抜く術を身につけている。
依子との出会いで運命が大きく動く重要人物。
会長のお嬢様。現実にもいますが大きな権力を持つ親の言うとおりにしていれば恵まれている環境の中で生きていられる。逆を言えば大きな権力から逃れることが出来ない。目は光を失い人形になっているお嬢様。現実にも人形のようなお嬢様っていますよね。そんなイメージで見ていました。
柳 永洙
内樹会の若頭補佐(組長の側近・副幹部)。
源造会長の右腕で、冷静沈着。依子の戦闘力と心情の静かさに目を付けており、物語序盤から彼女の素質を見抜く。
源造会長や組織を支えるタフなリーダー格。
冷静で腕が経ち、カリスマ性もある。かっこいいヤクザの代名詞のようなきりっとした男です。
内樹源造
尚子の父親で内樹会(関東最大規模の暴力団・興津組直参)の会長。
威圧的かつ権力志向で冷酷だが、娘・尚子には過保護な面も。
若頭補佐の柳や柴崎マサらと組織内闘争を繰り広げ、依子と尚子の関係に暗躍する。物語の敵役の一人。
娘の尚子を人形に仕立て上げた父親。子どもを所有物としてしか見ておらず、愛情を注いでいるのではなく自分の思い通りにしたいだけの愛情を尚子に注ぎ続ける父親です。
内樹由紀江
尚子の母親で源造の元妻。
10年前に源造と内紛があった頃、若頭補佐の柴崎政男(マサ)と駆け落ちして組を出奔したとされる。
以後行方不明で、尚子の出生と境遇に大きく関わる鍵となる人物。物語冒頭から影のように存在感を示す。
結局この人は何だったのだろう?最後まで分からなかったけれど、内樹源造とともに生きるより、死してもマサと生きた方がよかった。そう思えるほどの男に出会ったのだろうと思います。
柴崎政男(マサ)
通称「マサ」。元内樹会若頭補佐。
由紀江と駆け落ちした女性で、後に身分を隠して 斉藤正 と名乗る。
組長家と敵対する立場から尚子・依子に深く関わり、逃亡劇の伏線に絡む。物語終盤で重要な役割を果たす男性。

もうひとり、宇田川っていうヤクザが主要人物としているわ。もうゾッとするほどの人だからここでは紹介しません。本編を読んでその残虐性を確認してね。
ラスト考察
物語のラストは衝撃的で解釈が分かれるところですが、大きく2~3通りの見方が考えられます。
宿命と解放の物語
一つの解釈は、尚子の死を「宿命に抗えなかった悲劇」と見る考え方です。

いや死んだのか死んでないのか未だに分からないのですが、「宿命」からはのがれられなかったかぁって思っちゃいますね。
源造の血縁に生まれた尚子は最後までヤクザという宿命に縛られており、宇田川剛との対決は逃れられない最期だったと捉えます。
この見方では、ラストは逃避行の終着点として尚子の無念と純粋さを強調し、依子は彼女の願いを引き継いで戦い続けるという希望が見え隠れします。
ただ「よく戦ったよ、尚子と最後」絶対言いたくなるので読んでください。
女性たちの連帯と再生
別の解釈では、ラストシーンは「依子と尚子の魂の再生」とも考えられます。
逃走生活を続けた末の別れは悲劇ですが、二人は最後まで互いに寄り添い、結果的に自由を獲得しています。そして、最後に鬼婆に二人はなっていく希望も示されでいます。
この見方では、依子と尚子の深い絆こそが物語のテーマであり、タイトルの「ババヤガ(鬼婆)」は二人の破滅を招く恐怖ではなく、強さと連帯の象徴と解釈できます。

この小説を読んだら「鬼婆」になりたくなるのよ!気持ちの良い人生を送れそうって!
社会的圧力への批判
もう一つは、ラストを「社会や家族の枠組みに縛られた女性たちへのアンチテーゼ」と見る見方です。
尚子が強い弓道の技を披露し、自分の役割と決別する場面は、女性が与えられた運命から解放される象徴とも考えられます。男と女に役割を押し付ける社会に対してこの2人が自由を獲得していく過程、それがこの物語だともいえるでしょう。依子もまた暴力を正当化しない強さを見せ続け、二人の結末は「暴力に頼らず自分らしく生きる」メッセージです。悲劇の結末に見えるラストも「自分らしく生きる」ことを選んだ二人は刑務所からと脱獄した「ショーシャンクの空に」のようにどこまでも自由に生きられる解放感いっぱいの爽やかな読後感も得られるでしょう。
さてさて、「ババヤガの夜」のラストはあなたにとってどんな意味を持つでしょうか。依子と尚子は本当に救われたのか、あるいは新たな運命に足を踏み出したのか――読者それぞれの解釈に委ねられています。あなたはこの結末をどう読み解きますか?

「ババヤガの夜」がつまらないという評価もあります。それはなぜでしょうか?
つまらないと言われる理由
つまらないと言われる理由は、5つに絞れると思います。
- 過激すぎる暴力表現
- 複雑な時間構成
- キャラクターの距離感
- 期待外れの展開
- 一部設定の弱さ
ちょっと残酷な描写が多いからバイオレンスが苦手な人は辛いかもしれません。また、時系列がバラバラで描かれているので何を読まされているのか分からない章もあります。再読すると「うわ~~」っとなるので再読する楽しみもありますけどね。
キャラクターが分かりやすく恋愛や友情を発揮してくれないあいまいな関係です。分かりやすい人間関係ではありません。また、展開が早くどんどん物語が進んでいきます。もっと派手なアクションを期待していた人からすると物足りなかったりします。
最後読み終えたときにあの人物どうなった?と読書好きにはたまらない想像させる余地を残しているもののもやもや感はほんのわずかに残るでしょう。以上がつまらないと言われる所以だと思っています。

でも、伏線回収の時の読み返しはたまらなく面白いし、微妙な人間関係に読者としてこんな気持ちなのかなって感情を想像するのも楽しめると読みごたえ抜群です。
感想・評価まとめ
『ババヤガの夜』は、従来の暴力小説を超えた、女性同士の絆が光る人間の希望の物語です。
激烈なアクションと叙述トリックが織り交ぜられ、ダガー賞受賞作にふさわしい完成度を見せていますが、読んでみて分かりました。
この小説の一番すごいところは、

淡々とした文章が読者に与える没入感です。
「ババヤガの夜」の世界に没入させるのが上手い。その世界で新藤依子と尚子、内樹会のヤクザたちが蠢きあっている。没入した読者は新藤依子と尚子に感情移入してラストは感情を新藤依子と尚子と共通できるほどの「没入感」を持った作品だということです。
暴力描写の生々しさや独特の構成ゆえ、万人向けではないことも事実です。ただ、読者は翻弄される物語を楽しみながら、主人公たちの気持ちに共鳴することは、間違いない秀作です。



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