「ジョニー・デップが映画作るんだって!原作は「巨匠とマルガリータ」らしいぞ!」

簡単に言うと漫画「チ。-地球の運動について-」のように人間の好奇心や真実を求める力は「誰にも止められない」という話。
ロシア文学の金字塔でありながら、奇想天外さから「難解」とも評されるミハイル・ブルガーコフの長編小説『巨匠とマルガリータ』。この作品が今、再び大きな注目を集めています。そのきっかけは、ジョニー・デップによる史上初の英語版映画化の発表です。

ロシア文学と聞いただけで難しいのにさらに「難解」の烙印を押されている『巨匠とマルガリータ』です。
『巨匠とマルガリータ』の背景とあらすじ、そして難解さを乗り越えて作品を楽しむための日本語訳のおすすめを比較解説します。
ジョニー・デップが挑む、映画化不可能と言われた世界的傑作
2025年12月10日(現地時間)、サウジアラビアの紅海映画祭にて、ジョニー・デップが自身の製作会社を通じて『巨匠とマルガリータ』を映画化することをサプライズ発表しました。
この小説は、1930年代のスターリン政権下で執筆されたものの、反体制的と見なされて作者ブルガーコフの死後まで出版されなかった「大問題作」です。
これまでローマン・ポランスキー、フェデリコ・フェリーニ、テリー・ギリアム、そして『ムーランルージュ』のバズ・ラーマンといった名匠たちが映画化を試みましたが、英語での実現には至っていません。ジョニー・デップがプロデュースするこの初の英語版映画化は、2026年後半にクランクイン予定で、ジョニー・デップ自身が主演する可能性も示あります。

『巨匠とマルガリータ』のどこが「大問題作」なのかしら
本作は読みやすいとはいえない作品ですが、読むほどに深い魅力のある作品です。
作品紹介
『巨匠とマルガリータ』は、近代ロシア文学を代表する長編小説であり、20世紀を代表する奇怪小説として世界中で愛読されています。40以上の言語に翻訳され、1億部以上を売り上げている世界的ベストセラーです。

『巨匠とマルガリータ』は、奇想天外な二部構成の物語です。
あらすじ
『巨匠とマルガリータ』では悪魔がモスクワを混沌に!?
小説の主要な登場人物は、巨匠、彼の愛人マルガリータ、そして悪魔ヴォランドとその一味です。

巨匠と愛人のマルガリータと悪魔の一味で織りなす奇想天外物語なのね!ふむふむ。
第1部
第一部の舞台は1930年代のソ連の首都モスクワ。
詩人のイワン・ポヌイリョフと文芸誌編集長ミハイル・ベリオリーズの前に、怪しげな外国人、ヴォランド教授が現れます。ヴォランドの正体はキリストの真実を知る悪魔で、彼はイエスの存在に懐疑的なベリオリーズに対し、2000年前のキリスト処刑(ヨシュアの物語)を語り聞かせます。
悪魔ヴォランドは、巨大な黒猫ベゲモートや部下を従え、モスクワで次々と騒動を起こし、街に混乱をもたらします。この場面はナンセンスコメディ、エログロ、サスペンス、ファンタジーが入り乱れる「ジャンルごった煮状態」です。

予言、入院、ヴァリエテ劇場での残虐…。悪魔やりすぎ……。

ちょっと!巨匠とマルガリータ出てきてないじゃない!!
この第1部では、タイトルロールの巨匠とマルガリータは本格的には登場しません。
巨匠とマルガリータが主役級として現れるのは第2部に入ってからです。
第2部
第2部では、小説を認められず原稿を焼き捨て、精神病院に入院している巨匠と、彼を愛するマルガリータの物語が展開していきます。マルガリータはヴォランドの手引きで魔女となり、離れ離れになった最愛の巨匠を求めて非日常を体験し、悪魔の大舞踏会で女王役を務めます。マルガリータと悪魔ヴォランド一味は食事を取っているところ、「何か言い残す事はあるか」と尋ねられたマルガリータは「私の恋人の巨匠を帰して欲しい」といって無償の愛を示していいきます。
その後巨匠とマルガリータは再会。続いて、焼失したはずの巨匠の小説は、ヴォランドの「原稿はけっして燃えないものです」という言葉によって蘇ります。
悪魔ヴォランドとその一味は、巨匠を迫害した文壇の権威や当局の中枢を攻撃し、最終的に巨匠を救出します。
巨匠とマルガリータは永遠に結ばれて天上世界へと旅立ち、巨匠は自身の小説の主人公であるポンティウス・ピラトゥスを2000年の苦悩から解放することで作品を完結させます。

訳が分からないんだけど、悪魔は巨匠の味方なの??悪魔なのに巨匠助けてるし……

悪魔ヴォランドは「悪をなそうとして、善をなしてしまう存在」として描かれています。
悪魔ヴォランドとは?
巨匠にとっては焼き捨てられた原稿を復活させた救世主です。しかし、第一部ではモスクワを混乱に陥れた「悪魔」そのものとして描かれています。
つまり悪魔は、国家権力や俗物的文学界が踏みにじった「真実の物語」に正当な価値を認めているといえます。
第一部でモスクワを混乱に陥れた訳には人間の思想的独断と傲慢、官僚たちの権威主義・虚偽・保身、役人への金銭欲・卑怯さへの罰ともとれる行動を起こし、第二部では、マルガリータの無償の愛、巨匠の誠実な創作に対して、「尊重」という行動を示します。
悪魔ヴォランドは善悪二元論で単純に語られる「悪魔」ではなく、「善」と「悪」を平等な天上界から見てはかりにかける「善悪の裁判官」であるとも言えます。

なるほど、単純に悪魔だから悪い奴って感じじゃなくて「裁き」を与える存在として描かれているってことね。
『巨匠とマルガリータ』が生前に出版されなかった最大の理由
『巨匠とマルガリータ』が生前に出版されなかった最大の理由は、ソ連体制の根幹を複数の点で同時に否定していたからです。しかもソ連にとって非常に不都合な形で描かれていたことが決定的でした。
ソ連は公式に国家的無神論を掲げていました。
- 宗教は「アヘン」
- イエスは歴史的にも思想的にも否定対象
- 聖書的世界観は反革命的
ところがこの小説では、
- イエス(ヨシュア)は実在し、思想家として描かれる
- 神と悪魔が世界を構成する前提として存在している
- 無神論者が最初に破滅する

つまり、ソ連公式世界観そのものが物語の冒頭で否定される小説だったのです。
また、文学官僚・文化統制システムへの露骨な風刺も効いています。第一部モスクワ編で悪魔ヴォランドが混乱を招く人物は文学雑誌編集長・作家組合・住居管理委員・劇場幹部・官僚的インテリ層であり、卑怯・俗物・金と地位に弱い・真実より自己保身を選ぶとという最悪な人間像で描かれています。これは当時のソ連において作家同盟(国家管理)・社会主義リアリズムの強制・批評家による思想検閲を笑いものにする風刺です。

日本に置き換えると戦前の天皇陛下崇拝と日本は強国であるという戦争へ向かうプロパガンダを否定して一人の人間の「善」のみを賞賛される小説を書いたとでもいえましょう。
検閲をしても、直せる規模の設定ではなかったため出版されなかったと言えます。ソ連が国民に提示している世界観を丸ごと否定して神を存在させ、悪魔を肯定的に書き、無神論者を愚か者として描き、政府、官僚、メディアを嘲笑した作品だったから、とてもソ連当局にとって「不都合」な小説だったのです。

もうひとつ重要な点を忘れてはいけません『巨匠とマルガリータ』が出版されなかったのは皮肉にも「面白すぎた」からです。この作品を読めば、笑いながら極上のエンターテイメントとしてソ連が作り上げてきた世界がすべてではないと理解できてしまうことです。
読みやすい翻訳はどれ?日本語訳おすすめ比較と星評価
『巨匠とマルガリータ』は過去に4回も日本語訳が出版されており、多少の言い回しや固有名詞に違いがあります。難解なテーマを扱い、600ページ近い大ボリュームであるため、翻訳の読みやすさは作品への没入感を大きく左右します。
ここでは、特に言及のあった翻訳を比較し、読みやすい順に星5段階評価(★★★★★が最も読みやすい)でご紹介します。
| 訳者 | 出版社・版 | 特徴・評価コメント | 総合評価 |
|---|---|---|---|
| 石井 信介 訳(新訳) | 新潮文庫(2025年) | ロシア文学の重厚さを保ちつつ、軽やかで読みやすい。 洒脱なユーモアと風刺が伝わりやすいと高評価。最新の読者にも入りやすい訳。 | |
| 水野 忠夫 訳(定番) | 岩波文庫・集英社など | 疾走感があり「ぐいぐい来る」訳文。 面白くて一気に読めると長年支持される定番訳。 | |
| 中田 恭 訳 | 郁朋社 | 水野訳・法木訳を参照し、ロシア人教師との個人授業を通じて完成。「これが決定版」と推す声もある意欲的な訳。 | |
| 法木 綾子 訳 | 複数社 | 現在入手しやすいが、一部読者から否定的な評価が見られる。訳語やリズムに好みが分かれる傾向。 |
『巨匠とマルガリータ』 ミハイル・ブルガーコフ 石井信介/訳
2025年に刊行された石井信介訳(新潮文庫 Star Classics)は、「ロシア文学の重厚さを保ちながらも軽やかで読みやすい」と高く評価されており、特に初めて『巨匠とマルガリータ』に挑戦する方には最適です。

新潮社の「巨匠とマルガリータ」はより読みやすくて一番オススメね!
ブルガーコフ 水野 忠夫|岩波文庫 – 巨匠とマルガリータ (上)
水野忠夫訳も「ぐいぐい来る」、つまりストーリーに引き込まれる魅力的な翻訳として長年親しまれてきた定番です。

2015年出版だから比較的新しいしこちらも読みやすい表現だわ!
『巨匠とマルガリータ』 ミハイル・ブルガーコフ(著)/中田恭(訳)
水野訳と法木訳をベースに、ロシアの先生との個人授業で完成させたという翻訳。「これが決定版だろう」と強く推奨されている意見もあるくらい名訳。

クラシックとトレンドをうまく取り入れた翻訳は名訳よ。
巨匠とマルガリータ
現在入手しやすいが、一部読者から否定的な評価が見られる。訳語やリズムに好みが分かれる傾向。

ちょっと抵抗がある人もいると思うわ。でも、翻訳として丁寧に翻訳されている印象ね。
まとめ
『巨匠とマルガリータ』は、600ページ近い超大作であり、ジャンルが混在し、主人公の登場も遅いなど、読むうえでのハードルが低いとは言えません。
キリスト教やソ連時代の知識がなくても十分に楽しめますが、深く考えず、ある程度割り切って気負うことなく読んでみるのが、この作品を楽しむための秘訣です。

ちょっと時代背景を勉強して読むというより、読み物として慣れるように読むのがおすすめ!
この物語の醍醐味は、一見まとまりに欠けるように見える話が、実はすべて終盤のための伏線として活きており、読破した時に「すべてが必要な要素だったこと」がわかる点にあります。
ジョニー・デップの映画化をきっかけに、この複雑で魅惑的な作品をぜひ手に取ってみてください。
この作品は、迫害された芸術家の魂と、その魂を救う「愛」の物語であり、ブルガーコフ自身が信じたように、「原稿は燃えないものなのです」という不滅のメッセージを私たちに届けてくれます。普通の小説を読み飽きたという方にこそ、挑戦してほしい傑作です。





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