「名前は聞いたことがあるけれど、具体的に何がすごいの?」——そんな疑問にお答えします。
日本の公共図書館を根底から変えた報告書『市民の図書館』の全体像を、3つの重点項目・歴史的背景・現代への影響まで一気に理解できるよう、丁寧に解説していきます。
『市民の図書館』とは何か——その背景と意義
『市民の図書館』は、1970年(昭和45年)に日本図書館協会が刊行しました。「市民の図書館」は、地方議会議員や一般市民にも広く読んでもらえるよう平易な文章で書かれ一般に広く普及する目的で書かれたものです。『市民の図書館』は、その後の日本の公共図書館行政に計り知れない影響を与え続けています。
『市民の図書館』が生まれた時代背景として、1960年代の日本は高度経済成長の真っただ中でした。地方都市への人口流入が進み、教育や文化へのニーズが急速に高まっていました。しかしながら、当時の図書館のほとんどは「本を大切に保存する場所」という性格が強く、市民が気軽に利用できる施設にはなっていなかったのです。
当時の図書館の課題は、大きく3つに整理できます。
①貸出冊数が少なく、館内閲覧が中心だった
②手続きが煩雑で、利用者が図書館を使いにくかった
③図書館のない地域(農村・郊外)の住民はサービスを受けられなかった

当時の地方の市民は「図書館なんて本があっても誰も本を読まん!」という意志きでした!
こうした状況を根本から変えようとしたのが、『市民の図書館』です。『市民の図書館』は、図書館を「市民が自らの問題や願望を自らの手で解決していくための施設」と定義し直しました。単に本を置いておく場所ではなく、民主主義社会の基盤を支える公共インフラとして位置づけ直したのです。この転換は、日本の図書館史において「コペルニクス的転回」とも評されます。

市民が自らの願望をかなえるようとするときその答えは本の中にある!「保存のための図書館」から「市民のための図書館」へ——このたった一言の転換が、その後の日本の公共図書館をまるごと変えてしまったんだよ。すごいパワーワードだよね!
3つの重点項目(縦の3か条)を深掘り解説
『市民の図書館』の理念を実践するにあたり、特に重要とされたのが「3つの重点項目」(縦の3か条とも呼ばれます)です。
この3つを正確に理解することが、レポートや試験対策において非常に重要になります。
館内閲覧中心から「家に持ち帰る」貸出中心主義への大転換。 手続きの簡便化とプライバシー保護が鍵。
子どもの頃から本に親しむ習慣を育てることで、 市民全体の読書文化を底上げする長期的戦略。
移動図書館・分館を整備し、「図書館に来れない市民」の いる場所へ本を届ける積極的アウトリーチ。
① 貸出を伸ばす——「館内で読む」から「家に持ち帰る」へ
この重点項目の核心は、図書館サービスの主軸を「館内閲覧」から「貸出(持ち帰り)」へとシフトさせることにありました。それまでの図書館では、本は館内で読むものとされ、貸出は補完的なサービスにすぎませんでした。
なぜ貸出を伸ばすことが重要だったのでしょうか。答えは「生活との近さ」にあります。家で本を読める環境が整えば、忙しい大人や子育て中の親、仕事帰りの方なども気軽に図書館を使えるようになります。図書館が「わざわざ行く場所」から「日常の一部」になれるのです。
💡 重要ポイント:貸出中心に転換するためには、「気軽に借りられる仕組み」が不可欠でした。そこで注目されたのが、次のセクションで解説するブラウン方式です。プライバシーへの配慮と手続きの簡便化が、貸出拡大の実際的な推進力になりました。
② 児童サービスの重視——未来の読者を育てる
「市民の図書館」では 『中小レポート』に おいても軽視されていた、利用者市民としての子どもと女性を発見し、サービスの主要な対象にしたことが功績として挙げられます。
子どもへのサービスを最優先とした理由は、「読書習慣は子ども時代に形成される」という認識に基づいています。
幼い頃から図書館に親しみ、本を楽しむ体験を持った子どもは、大人になっても図書館を使い続けます。これは個人の教養にとっても、市民全体の知的水準を高めるうえでも、重要なサービスです。
具体的には、児童室の充実・絵本の充実・読み聞かせ活動(おはなし会)など、子どもが図書館を「楽しい場所」と感じられる取り組みが積極的に推進されました。これは現代の「ブックスタート運動」や「学校図書館との連携」にも受け継がれている精神です。

子どもへのサービスは「今すぐ効果が出ないじゃん」って思うかもしれないけど、長い目で見れば社会全体の読書文化を変える大きな力になるんだね。10年・20年後を見据えた、とても経営コンサルタント的な大きな戦略だね!
③ 全域サービス——「来てくれるのを待つ」から「届けに行く」へ
第3の重点は、サービスの届く範囲を図書館の建物の外へと広げることでした。
当時、図書館のない地域や、遠くて通えない住民は、図書館サービスを利用することができませんでした。これは市民サービスとしての公平性の問題でもあります。
その解決策として推進されたのが、移動図書館(自動車文庫)と分館ネットワークの整備です。移動図書館は、バスに本を積んで住宅地や農村を巡回し、現地で本の貸出・返却を行うサービスです。「図書館が市民のところへ出向く」という発想は、当時としては非常に革新的なものでした。
日野市立図書館の先駆的実践
『市民の図書館』の理念は、報告書刊行(1970年)よりも前から、東京都日野市立図書館において実践されていました。その意味で、日野市の実践は「理念の先行実験」であり、報告書はその成功を全国に広めるための指針書でした。
日野市立図書館の変革を牽引したのが、前川恒雄(まえかわ つねお)館長です。
1965年、前川館長らはまだ建物としての図書館がない状態から移動図書館をスタートさせました。「ない」ところから始めるという、まさに零(ゼロ)から作り上げた実践です。
前川館長が問い続けたのは「本を読まない市民を、読む市民にするにはどうすればいいか」というシンプルかつ根本的な問いでした。
この問いこそが、日野市図書館の全てのサービス設計の出発点でした。
その具体的な実践として、日野市立図書館は以下の取り組みを進めました。
- 移動図書館「ひまわり号」による市内全域サービス
- 予約制度の導入(読みたい本を確実に届ける仕組み)
- プライバシーに配慮した貸出方式(ブラウン方式)の採用
- 地域住民のニーズに徹底して応える蔵書構成
この日野市での成功は全国の自治体へと波及し、「市民に積極的に使われる図書館」のモデルケースとなりました。1970年代以降、各地の公共図書館で貸出冊数が劇的に増加していったのは、この実践に学んだ結果といえます。

「建物がない状態から移動図書館を始める」って、今で言えばオフィスなしでスタートするスタートアップみたいです!前川館長の「まず動く」精神は、現代にも通じる熱さがありますね。
日野市立図書館が団地にサービスポイントを置いて、子どもと主婦をサービスのターゲットしたことで『市民の図書館』 が全市民へサ ービスとともに、「徹底的に児童にサービスすること」 を特別に指摘したのは、都市化する社会、 都市中間層の家族(教育家族)の要求を鋭 く把握していたといえるでしょう!
ブラウン方式とプライバシー保護
貸出中心主義を実現するうえで、大きな役割を果たしたのがブラウン方式という、貸出を「気軽に」した仕組み貸出管理方法です。『市民の図書館』の中で唯一具体的な貸出方式として紹介されているこの方法は、1964年に前川恒雄によって手続きの簡便な貸出方式として改めて日本に紹介されました。
| 比較項目 | 従来方式 | ブラウン方式(改良後) |
|---|---|---|
| 手続きの煩雑さ | 台帳への記入・職員との対面確認が多い | カードを使い手続きを簡略化 |
| プライバシー | 誰が何を借りたかが把握されやすい | 個人の読書履歴を守る設計 |
| 利用のしやすさ | 利用者が委縮しやすい | 気軽に借りられる雰囲気 |
プライバシーへの配慮は、単なる利便性の問題ではありません。
「何を読んだか」は、その人の思想・信条・価値観と直結する非常に繊細な個人情報です。図書館が利用者のプライバシーを守ることは、知的自由の保護という観点から本質的な意義を持ちます。この精神は、現在の「図書館の自由に関する宣言」にも受け継がれています。

「何の本を借りたか」を誰にも知られないように守る——個人情報保護法の施工が2005年、「市民の図書館」は1970年発刊。図書館が50年以上前からプライバシーを守る設計を考えていたって、すごく先進的なんです!
年表で整理する——公共図書館の変遷
文脈を理解するために、日本の公共図書館史における重要な流れを年表で整理します。
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戦前〜1945年「図書館令」時代——保存中心の図書館図書館は資料を保存・展示する場とされ、貸出は限定的。利用者は限られた知識層のみ。
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19501950年(昭和25年)図書館法の制定戦後民主主義の理念のもと、公共図書館を無料・公開の施設とする法律が制定される。しかし実態は変わらず。
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19631963年(昭和38年)「中小レポート」刊行『市民の図書館』の前身となる報告書。貸出重視の方向性が初めて打ち出される。
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19651965年(昭和40年)日野市立図書館が移動図書館を開始前川恒雄館長のもと、建物がない状態から移動図書館「ひまわり号」スタート。貸出中心サービスの先駆的実践。
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19701970年(昭和45年)『市民の図書館』刊行日本図書館協会が刊行。3つの重点項目が示され、全国の公共図書館の方向性を決定づける。
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70s1970年代〜全国への普及と貸出冊数の急増移動図書館・分館の整備が全国で進む。公共図書館の貸出冊数が年々急増していく。
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現代2000年代〜現在課題解決型・複合型図書館の登場『市民の図書館』の精神を継承しながら、地域の課題解決や生涯学習支援、サードプレイスとしての機能が加わる。
現代の図書館への影響と進化
『市民の図書館』が提示したサービス像は、50年以上を経た今日の公共図書館にも深く息づいています。ただし、現代の図書館はその理念を受け継ぎつつも、さらに大きな役割を担うようになっています。
課題解決型図書館への転換
2000年代以降、公共図書館には「本を貸す」だけでなく、地域住民の生活上の課題を解決する支援拠点としての役割が求められるようになりました。就職・起業・健康・法律・農業など、地域の実情に応じた専門情報の提供がその例です。
岡山県立図書館や鳥取県立図書館などは、この「課題解決型図書館」の先駆的事例として知られています。ビジネス支援や医療・健康情報サービスは、今や全国の公共図書館に広がりつつあります。
岡山県立図書館は、ビジネス支援に特化し、起業や就職に役立つ専門情報やデータベースを提供する先進的な図書館です。
鳥取県立図書館は、医療・健康、法律、農業など生活全般の課題解決を支援し、住民に寄り添うサービスを展開しています。
複合型公共施設としての展開
近年では、図書館単体での設置だけでなく、他の公共施設との複合化が進んでいます。東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」のように、図書館機能に市民活動支援・青少年活動支援・生涯学習機能を組み合わせた複合型施設が各地で誕生しています。
これは「図書館に来てもらう」機会をさらに増やし、多様な市民のニーズに応える設計思想です。
武蔵野プレイスは、図書館を核に市民活動・青少年活動・生涯学習支援を一体化した複合施設。閲覧や貸出に加え、交流スペースやスタジオ、会議室などを備え、多世代が学び・つながる場を提供しており、地域コミュニティ形成を促進する先進的モデルとして評価されています。
サードプレイスとしての図書館
さらに現代では、図書館は「情報の提供場所」を超え、人々が交流し新たな知識を共に創り出す「サードプレイス(第三の居場所)」としての機能も重視されています。

鎌倉市図書館のX(旧ツイッター)のポストがいい例ね。
もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。
— 鎌倉市図書館 (@kamakura_tosyok) August 26, 2015
自宅でも職場でも学校でもない、誰もが気軽に立ち寄れる公共空間——その役割を図書館が担うことへの期待は、今後さらに高まっていくでしょう。

「本を借りる場所」→「課題を解決する場所」→「みんなの居場所」——図書館って実は進化し続けているです。『市民の図書館』はその進化のスタートラインだったのです。
デジタル化時代における意義
インターネットの普及により「情報はネットで調べれば十分」という考え方もありますが、公共図書館が提供するのは情報アクセスだけではありません。
信頼性の高い資料の選択・整理・提供、そして専門的知識を持つ司書によるレファレンスサービスは、情報が氾濫する時代にこそ価値を持ちます。『市民の図書館』が掲げた「市民が自らの問題を解決するための施設」というビジョンは、デジタル時代においても本質的な意義を失っていません。
レポート作成のための考察ポイント
図書館司書を目指す学生の方が、レポートや試験でより深い考察を書くための視点を整理しました。
レポートを深める5つの視点
- ①「保存」から「利用」への転換の意義
単に「貸出が増えた」という事実だけでなく、「なぜ貸出を増やすことが民主主義の実現と結びつくのか」を論じると、考察が一段深まります。 - ②日野市の実践が持つ意義
「ゼロから始めた移動図書館」という実践は、理念先行ではなく現場の工夫から変革が生まれた事例です。「トップダウン vs ボトムアップ」の図書館改革論として論じることもできます。 - ③プライバシー保護と知的自由の関係
ブラウン方式の採用は単なる利便性向上ではなく、「読む自由」「知る自由」の保護と直結しています。「図書館の自由に関する宣言」と関連させて論じると説得力が増します。 - ④現代における限界と批判
「貸出冊数至上主義」への批判(質より量になりやすい問題)や、電子書籍・デジタル情報との関係など、課題についても触れると多角的なレポートになります。 - ⑤課題解決型図書館との連続性・非連続性
『市民の図書館』の理念は現代に受け継がれているのか、それとも変質しているのか。賛成・反対どちらの立場でも論じられる重要なテーマです。

もうひとつ言うと、,1980年代以降、かつて過半を超えていた子どもの図書館利用は、もはや2割程度となり、代わって成人、高齢者の利用が急増 して、 利用者構造が大きく変化したから「市民の図書館」のマーケティングを見直さなければならない転機であることを付随すると良いでしょう。

「市民の図書館」で成功してきた50年の成功体験に縛られていては「図書館の発展」はない!現在においてはむしろ阻害要因だ!という意見もあるので、「市民の図書館」の今後についても言及できるともっといいね!
レポートでは、批判的に考えることも司書の大事なスキルです。
まとめ
『市民の図書館』(1970年)は、日本の公共図書館を「保存する場所」から「市民が使う場所」へと根本から転換させた歴史的な報告書です。
その核心である3つの重点項目
- 市民の求める図書を自由に気軽に貸し出すこと
- 児童の読書欲求に応え、徹底して児童にサービスすること
- あらゆる人々に図書を貸出し、図書館を市民の身近に置くために全域へサービス網をはりめぐらすこと
は、日野市立図書館の実践を全国に普及させる指針となりました。また、「市民の図書館」が図書館の普及に非常に有効だった1970年代ではかつて過半を超えていた子どもの図書館利用は、もはや2割程度となり、代わって成人、高齢者の利用が急増して、 利用者構造が大きく変化していることから、「市民の図書館」のやり方だけでは「今後の図書館の発展はない」と言われて現代において、求められる図書館像として課題解決型図書館や複合型公共施設、第三の居場所として展開することも今後の図書館の課題であることまで記述すると「市民の図書館」内容・現代への影響を明確にすることが出来ます。

『市民の図書館』とは?3つの重点・内容・現代への影響をわかりやすく解説いかがだったでしょうか?良い学習の参考になれば幸いです。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
参考文献:
- 山本 菜摘「図書館行政・コミュニティ行政の融合と市民への影響:武蔵野市の事例分析」筑波大学大学院修士論文, 2022.
- 前川 恒雄「日野市立図書館の設立、その考え方」日野市立図書館50周年記念誌.
- 山口 源治郎「『市民の図書館』 の歴史的評価をめぐっ て一誌上討論 「現代社会におい て公立図書館の果たす役割は何か」 を振り返る一」




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