伊坂幸太郎の新刊「さよならジャバウォック」が出版されたぞ~~!!と思ったのもつかの間、ネット上では、「つまらない」「面白くない」という声もちらほら……。
伊坂幸太郎作品は実は初めて読みました。
逆ソクラテスやゴールデンスランバーなど有名作品はあるものの食わず嫌いをしていた伊坂幸太郎さん。
「さよならジャバウォック」は広告に惹かれて読みだした小説です。
「さよならジャバウォックつまらなかった」という方は、たぶん途中で物語についていけなくなったか、伊坂幸太郎ブランドで期待感が高まったけど、思ったより空振りしたという気持ちだったのではないでしょうか?
実際、自分も読んでいる最中に「あれ、どこか読み飛ばした?」と感じることがありました。
物語の断片がぶつ切りで進むパートがあり、支離滅裂に見えてしまう瞬間があります。
でも結論から言うと、最後まで読み切ると「そうか、そういうことか」と腑に落ちる伏線になっているので、「つまらない」で切ってしまうのはもったいない作品です。今回はそう感じた理由を、自分の読書体験をもとに紹介します。
『さよならジャバウォック』あらすじ
物語は、強烈な広告コピーから始まります。
「夫は死んだ、死んでいる。私が殺したのだ。」
この一文だけを見ると、自責の念に苦しむ女性を描いたヒューマンドラマか、衝撃の結末が待つミステリーかな?とにかく、読み応えありそうだと思いますよね。

実際、自分も「夫は死んだ、死んでいる。私が殺したのだ。」この宣伝文句で読んでみた口です。
だけど読んでみたら、まったく予想していなかった物語でした。
本作の根幹にあるのは「ジャバウォック」と呼ばれる、人間の狂気をカスタマイズしてしまう謎の思念体です。ジャバウォックは人の心の弱さや歪みに取り憑き、その人物を狂気へと作り変えていきます。

人の脳に取り付く思念体との対決……物質攻撃は無効化され、唯一聴くのは音楽!
主人公やその周りの人たちは、人を狂気に狂わせるジャバウォックに立ち向かっていくことになります。
軽妙な会話とミステリーが絶妙に絡み合う作風を期待していた読者にとっては、ジャンルそのものが違う!そうじゃない…と驚くかもしれません。
だけど、本作は人間の内面に潜む狂気と、それに抗おうとする人々の戦いを軸にした、伊坂幸太郎としては異色とも言える一冊です。
物語は時に視点や場面が断片的に切り替わりながら進み、終盤になってそれらが一つに収束していく構成になっています。「夫を殺した」という冒頭の告白が何を意味するのか、その答えは物語の最後に2重構造の答え合わせが待っています。
なぜ「つまらない」「面白くない」と言われるのか
「つまらない」「面白くない」という感想は正直、僕も良く分かります。
だって、読んでいる途中で物語のつながりが全く分からなくてただ文字を追っている瞬間が多々ありました。場面と場面がぶつ切りに展開していくので、「これ、どこかページを読み飛ばしたかな」と本を閉じて確認したくなるほどです。

目は文字を追っているのに、文字は頭に入っていない状態だったかなって思っちゃいました。
途中、必ず「訳がわからない」「つまらない」と感じる人がいるのも納得できます。
ただ、この支離滅裂さこそがよい伏線となってると最後になると思うので途中で投げ出さずに読み進めることを強くおすすめしたいポイントです。
アクションシーンは少年ジャンプ級
物語の中盤以降、人を狂わせる思念体ジャバウォックとの戦闘描写は、まるで少年ジャンプの必殺技バトルのような迫力があります。
思念体を打ち倒す仲間が「破魔矢」と「絵馬」という名前で登場するあたり、すでに漫画的なセンスを感じますよね。
最近の小説家は明らかに漫画やアニメの表現から影響を受けています。
例えば年収1億2千万円の明るい直木賞作家今村翔吾さんの時代劇小説の戦闘シーンは、もはや1980年代の時代劇文学の文体ではなく、現代的な人間の身体感覚とスピード感を言語化したような迫力を持っています。武器に「神息」って名前が付いているところも武器に対してのあこがれを持ちやすいですよね。
『さよならジャバウォック』の戦闘シーンはそこまでの濃密さと疾走感はないです。でも、鬼気迫る緊張感と臨場感は十分に味わえます。
文章中に流れる音楽の描写も印象的で、漫画『20世紀少年』のように「ここでどんな曲が流れているか」を読者の想像に委ねる演出があり、感覚的な読書体験を作っています。
伊坂幸太郎の小説『さよならジャバウォック』の作中に登場し、物語の重要な鍵を握る楽曲は、ビートルズの『Everybody’s Got Something to Hide Except Me and My Monkey(邦題:皆、僕と僕の猿以外は何かを隠している)』と言われています。
「人は残酷な生き物か?」というテーマの深さ
「さよならジャバウォック」は、「人間は本当に残酷な生き物なのか、それとも慈悲深い生き物なのか」という問いに向き合う作品です。
これは作中で繰り返し提示されるテーマですが、その重さを裏付ける実例として、大航海時代のスペインによる新大陸征服の歴史が引かれています。

人間の残酷さの例としてインカ帝国を見てみましょう。
大航海時代スペインが南米に到着して人口激減
最大1,600万人ほどいたとされるインカ帝国の先住民の人口は、わずか数十年〜百数十年の間に108万人まで減少したと推計されています。

1600万が100万人に?!
人口激減の正体は先住民たちを銀山で過酷な強制労働を強いてから、スペインから持ち込まれた天然痘(1519年〜)、麻疹(1531年〜)、水疱瘡(1538年〜)、ペスト(1545〜49年〜)、おたふく風邪(1550年〜)、百日咳(1562年〜)といった感染症が原因です。
免疫を持たない先住民は、感染すれば致死率90%という非常に高い確率で命を落としました。

致死率90%の病気を持ち込まれたらたまったものじゃない!
さらにヨーロッパからやってきた船団は南米各地で虐殺を繰り返し、女性に対する暴力も横行し、社会そのものを崩壊させていきました。
- 「これって本当に人間の仕業なのか」
- 「人はもっと弱いものに優しくできる動物なのではないか」
大航海時代に新大陸で大虐殺をした事実を踏まえると、「さよならジャバウォック」が突きつける問いが重いことが分かりますよね。
人間は残虐な存在なのか、それとも助け合う慈悲深い存在なのか。
その答えを、伊坂幸太郎は『さよならジャバウォック』という物語の中に託しています。
評価:★3.8
伊坂幸太郎だからこそ、期待値の高さゆえの厳しめ評価です!
読んでみての評価は5段階中★3.8です。
物語のスケールは壮大ですが、その壮大さを十分に活かしきれていないようなラストステージはちょっと気になりました。
辛めの評価にしたのは、「伊坂幸太郎ブランドならもっと面白く書けたはず」という期待値の高さゆえです。逆に言えば、それくらい伊坂作品への信頼があるということでもあります。

上から目線ですが、読者は伊坂幸太郎ほどになると期待値が高くなっちゃうんですよね。
まとめ
「つまらない」で終わらせるには早い一冊ですよ!
『さよならジャバウォック』は、序盤〜中盤にかけて物語がぶつ切りに進む構成のせいで「つまらない」「面白くない」という感想を持たれやすい作品です。
しかし、それは終盤の衝撃的な納得感を生むための伏線であり、最後まで読み切ることで評価が大きく変わる小説です。

少なくとも私は衝撃的で開いた口がふさがらずに時が止まったわ!
少年ジャンプ級の迫力ある戦闘シーン、漫画的な命名センス、そして「人間は残酷か、慈悲深いか」という重厚な問いが組み合わさることで、単純なエンタメ小説では終わらない読後感を残してくれます。
「途中で挫折して評価を決めてしまうのはもったいない」というのが、読み終えた今の率直な感想です。
序盤でつまずいた方も、ぜひ最後まで読み進めてみてください。



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