もしかしたら、僕らの知っている世界の方が異常で「正常だと思っている世界の方が異常なのかもしれない」
ロバートコルカーによる「統合失調症の一族 遺伝か、環境か」を読むと以下に普通の世界が貴重で豊かかが分かります。

この本は、12人の子供のうち6人が統合失調症と診断されたギャルヴィン一家を通じて、遺伝的研究が精神医療に与えた影響を探るノンフィクションです。

統合失調症なんて他人事だと思っている子育て中のパパママにも読んで欲しい。
子供時代を栄華を極めたような秀才として過ごしたとしても、思春期が終わる頃、大人になってから「統合失調症」は発芽するかもしれないことをこのギャルヴィン家は教えてくれます。

誰しもが、他人事ではないということです。
登場順物が多くて名前も似ており、読みづらい部分もありますが、章ごとにギャルヴィン家の誰の話をするのか太字で紹介してくれるので読者にとって良いガイドとなっています。
この記事では、「統合失調症」自体がどのような病気かを説明はしません。ギャルヴィン家に起こった「統合失調症」がどこから来るのかを回想とともに感想として述べます。
ご興味あれば手に取ってお読みください。普通に暮らしていることがどれほど希少で奇跡が複合的に重なっているかが分かると思います。
「統合失調症の一族 遺伝か、環境か」あらすじ
本書は第二次大戦の最中、ギャルヴィン家の当主であるドンとミミの出会いから語られます。
1940年代後半から物語は動き出していく。第二次世界大戦後、ギャルヴィン一家は空軍に籍を置く父親の都合でコロラド州に移り住み、ベビーブームを背景に12人の子宝に恵まれることになる。
ここで、12人の子どもとドンとミミを含めた家族の名前を明らかにしておきましょう。
ギャルヴィン家の家族構成
父 ドン
母 ミミ
長男(ドナルド):統合失調症を発症。
次男(ジム):統合失調症を発症。
三男(ジョン):発症なし。
四男(ブライアン):統合失調症を発症。
五男(マーク):発症なし。
六男(ジム/リチャード等、作中の兄弟構成):発症なし。
七男(ジョセフ):統合失調症を発症。
八男(ジョン):発症なし。
九男(マシュー):統合失調症を発症。
十男(ピーター):統合失調症を発症。
長女 マーガレット:病気の発症はなく、家庭内の過酷な環境やトラウマに苦しみながらも自立の道を歩んだ。
次女 リンジー:病気の発症はなく、家庭内の過酷な環境やトラウマに苦しみながらも自立の道を歩んだ。
長男ドナルドの統合失調症の発症からジム、ブライアン、ジョセフと次々に「統合失調症」を発症。
この本ではギャルヴィン家の遺伝的要因に「統合失調症」の原因があるのではないかと精神医学の研究推移も時代ともに流れるトレンドを追って伝えています。
統合失調症100年の謎は未だ解けず
厳格な父母によって育てられた容姿端麗で運動能力の高い息子たちは、なぜ次々に精神疾患に見舞われたのか?
その原因は精神医学会は100年の疑問でした。
また、仮説で「コリン」という栄養が妊婦期に赤ちゃんに行き渡らなかったという結論めいたものをほのめかしているものの「コリン」が足りていれば、ギャルヴィン家は「統合失調症」に襲われなかったのか現時点でも時代を超える実験中であり、結論を出すに至ってはいません。
あくまでも、「人類」対「統合失調症」という図式を当てはめるならばギャルヴィン家はこの上ないサンプルとして記録すべき一家であったというだけです。
この本は物語にはなっているものの読ませるようには書かれておらず、事実をありのままに羅列していくような語り口で述べていきます。

読みづらいって意見もあるけど慣れればすらすら読めますよ~
結局遺伝なのか?環境なのか?

結論として、結局は「遺伝」も「環境」もどちらも。というのが本書の言うべきところだと思います。
「統合失調症」になりやすい遺伝子があることは発見されているものの、その遺伝子を持っているからと言って必ず、「統合失調症」を発症する訳ではないことがこの問題を複雑にさせています。ギャルヴィン家は、皆「統合失調症」になりうる遺伝子を持ってはいるものの、みんな発症しているわけではない。
つまり、なりやすい遺伝子を持っている人物が、「統合失調症」になりやすい「環境」に置かれたときに発症する症状だと認識するに至りました。
最後の方で、末っ子のリンジーは自分が「統合失調症」になりやすい遺伝子を持っていることを知り、お医者さんに「子どもを産まない方がいいのでしょうか?」と尋ねる場面がありますが、お医者さんはその遺伝子を持っていても必ず「統合失調症」になるわけではなく、「産めばいい。大丈夫だ」と言われるシーンがあります。
どんな環境にいても、どんな遺伝子を持っていても、必ず統合失調症になりますということでもないみたいです。
人は生まれる前に自分の遺伝子を選ぶことができません。また、生まれる親も環境も選べない。出来るのはどういう風に生きている「現実を受け止めるか」だけなのだと読んでいて思いました。
ギャルヴィン家はどんな環境で育ったのか?

「環境か?」というくらいなのでどのような環境でギャルヴィン家の子どもたちは育ったのでしょうか?
父ドンは空軍将校、母ミミは上流階級に少し憧れを持つ。
どんどん子どもを作っていくので周りは「こんなに子どもを作って大丈夫?」という懸念と「12人も子どもがいるなんてすごい!」という賞賛に近い評価が与えられていました。母のミミは賞賛を浴びてそちらにフォーカスしていたようにも思います。
そんな二人から生まれた子供たちは、「争い」が絶えませんでした。
「争い」です。
簡単言えば兄弟げんかですが、長男ドナルドは支配的な関係を兄弟に強制して次男のジムはドナルドに反発。
兄弟げんかというよりも「争い」が絶えない家庭であり、他の兄弟たちはドナルドとジムがいる家庭では必ずと言っていいほど緊張して「安息」の日はまったくなかったと言っていいでしょう。
家の中に12人の兄弟がいれば、だれがどのスペースで過ごすのかという空間の「領土争い」も生まれます。
そして、兄弟間の地獄のような「争い」に「統合失調症」というブーストがかかり地獄が永遠に続くと思われる煉獄に。
さらに、1960年代~70年代のアメリカの流行なのでしょう。
LSD、覚せい剤、マジックマッシュルーム等による薬物を使用して、煉獄×煉獄。
環境という意味でいうと「家庭内の環境」と当時の「アメリカ内の環境」この2つが関係していると思われます。
ギャルヴィン家の12人も兄弟がいるという環境も特殊ですが、薬物が簡単に手に入る「アメリカ内の環境」は、注視すべき点として挙げられるでしょう。
そんな簡単に精神に異常をきたすものが手に入る国なら、誰もが「異常者」になってもおかしくない。本書を読むとそう思わざるをえません。
統合失調症のように重い病気でなくても、「病院に行くほどではないけれど、なんとなく心が苦しい」と感じている方は多いと思います。
そんな方向けに、通院しないメンタルケアの選択肢についてまとめた記事もありますので、気になる方はあわせてご覧ください。
→ 「病院に行くほどじゃない」けど苦しいあなたへ
最後はどうなるの?
統合失調症の発症に苦しめられてきた1970年代から物語は現代2017年まで語られます。
ドンも子どもも何人も亡くなり、ミミも亡くなっていく。
人は皆生まれながらに死を運命づけられているようにギャルヴィン家も例外ではありません。
地獄×地獄を生き抜いてきた400p以上の書物の終わりにはギャルヴィン家との別れがあります。
これまでいろんなエピソードを知っている読者としては、ギャルヴィン家がひとりづつ天に召されていく描写は寂しいと同時に「よく生き抜いたね」と尊敬の念すら抱くほど、物語の最後にはギャルヴィン家に対して愛着を持ってしまうのが分かりました。

最後、ギャルヴィン家の皆さんが亡くなっていくのは、読者としても喪失感があります。
ギャルヴィン家に幸あれ
最早考えられるすべて最悪のことが起きたギャルヴィン家ですが、人類が100年経っても明らかにできない「統合失調症」の医学を一歩先に進めてくれました。
世界中で、推定では100人に一人が統合失調症にかかっており、アメリカではその数は30万人を超えている。全世界では8200万人。ある統計によると統合失調症と診断された人が、アメリカでは精神科病院の全病床のうち3分の1を占めるそうです。別の統計では、統合失調症の成人のうち約4割が全く治療を受けていないという。
これだけ多いと、もしかしたら僕らが「普通」という世界に生きている方が少数派なような気もしてきます。世界を生きる人間はもっと「混沌」としていて「生きづらく」地獄とも呼べる日々を送る方が多いのではないか?との疑問さえ浮かんできます。
冒頭でも触れたとおり、統合失調症の現在の希望は「コリン」という栄養をお腹の中にいるときに母親の血液から摂取したかどうかによってその可能性は上下するという仮説が今実証実験中だということです。
「コリン」を取っていればなりづらく、「コリン」を摂取しなければなりやすいというのが、今一番有力な仮説ですが、この結論にたどり着いたのもギャルヴィン家のサンプルがあったからに他なりません。

あくまで仮説でその結果が出るのはまだ何十年後かですね

アメリカって実験の規模がすごいよね。何十年規模で追跡調査とか。
本を読むとギャルヴィン家は地獄としか言えないもののその軌跡には「統合失調症」に苦しむ人を助ける大いなる一歩を手助けしてくれたともいえると思います。
ギャルヴィン家の一族に幸あれと私は祈念しようと思います。
読む価値ありますか?
「統合失調症」に少しでも興味があったり、理解したいという気持ちがあるなら、「統合失調症」と診断されてから人類と「統合失調症」との戦い研究が分かりやすく一冊にまとめられています。

読む価値ありです。
ノンフィクションだからこそ生まれる数奇な物語に引き込まれる方もいらっしゃるでしょうし、どのようにして精神疾患と研究者が闘っているのかその苦悩とはどのようなものか?の一端を垣間見ることができる稀有な一冊です。
ノンフィクション以外にも、幅広いジャンルの本をレビューしています。読書のジャンルを広げたい方は、こちらの記事もどうぞ。沢山の方に読まれている記事です。
→ 新書とは?分かりやすく解説!教養を深める新書レーベル15選
まとめ
「統合失調症の一族 遺伝か、環境か」は、ギャルヴィン家12人兄弟のうち6人が統合失調症を発症したという実話を基にしたノンフィクションです。
遺伝か環境か、という問いに対して本書が出した答えは「どちらも」というシンプルなようで複雑な結論でした。
なりやすい遺伝子を持っていても、環境次第で発症しないこともあれば、逆に発症してしまうこともある。人間の精神という、目に見えないものの脆さと不確かさ、奥深さを、これでもかというほど突きつけられる一冊です。

読み応えあります。
正直、読みやすい本ではありませんが、100年間解けなかった「統合失調症」という謎に、ギャルヴィン家というたった一つの家族の物語を通して迫っていく構成には、他の本にはない圧倒的な説得力があります。
普通に、平穏に暮らせている日常がどれほど奇跡的なことなのか。この本を読み終えたとき、きっとあなたも同じことを感じるはずです。
気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。
この本を読んで、「自分や家族の心の健康について、少し考えてみようかな」と感じた方もいるかもしれません。
統合失調症のような重い病気でなくても、日々のちょっとした心の不調に向き合う選択肢の一つとして、AIと専門家によるカウンセリングサービス「マインドバディ」を紹介した記事も書いていますので、興味があれば覗いてみてください。
→ マインドバディとは?AI×専門家のカウンセリングを解説



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