ファイア・ドーム 感想・書評|現実の事件と重なる恐怖、人間心理を描く辻村深月の傑作【ネタバレなし】

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「巨匠 辻村深月」

そう呼んでももはや違和感がなくなった。直木賞を受賞し、本屋大賞も受賞する人気作家が成熟の境地に達したと感じるのが2026年5月出版の「ファイア・ドーム」である。

人気作家であれど、読んでみたけれど意外と「期待外れ」だったという本も少なくない中、この「ファイア・ドーム」は「期待外れ」でもなく「つまらない」という感想を持つこともなく原稿用紙1500pの迫力を最初から最後まで堪能できる内容となっています。

びぶーん
びぶーん

読んでいて止まらなかったです。

この記事では、ネタバレはしたくないのでネタバレなしで「ファイア・ドーム」ってどんな小説か?どの事件がモデルなのか?読んだ感想・書評をご案内します。

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何故か本を読んと現実とリンクすることってありませんか?

僕が本を読むとき不思議なことに現実でも似たような事件が起きます。

本を読むことで物語で起きている事件のアンテナが広くなり、現実でも感度が良くなった結果、同じ事件が目に付くようになるようです。

読書家の方はそんな方も多いのではないだろうか?

ちょうど「ファイア・ドーム」を読んでいた時に起こった事件は石川県にある県立小松特別支援学校から小学部5年の男子児童(10)が行方不明になったという事件である。

小学部5年の10歳の男子児童が「トイレに行く」と言って教室を出たのを最後に行方が分からなくなった事件ですが、小説「ファイア・ドーム」でも、児童の失踪事件は起こり、失踪者に最後に会って話をするのは学校の先生です。

失踪した事件の最後に出会った人物は自動的に「責任」を負わされます。

「最後に見たのはいつだ?」という当然の問題を解こうとして辿り着いく質問です。

そして、田舎で起こったその事件は田舎特有の閉鎖的な「噂」によって盛り上がりを見せていきます。

今回の石川県小松市の事件では「ファイア・ドーム」のような「噂の炎上」は起きていませんが、京都でも少年が失踪した事件が起きたとき、日本中の国民が探偵となったことは覚えていないでしょうか?

びぶーん
びぶーん

日本中が探偵になって推理する事件ってたまに起こるよね。

少年は学校まで父親に車で送られており、最後の目撃者は父親だった。学校では卒業式が行われており、先生は出席した事実は確認されていない。

このニュースを聞いたときに「怪しいのは誰だ?」と日本中が探偵になったことは言うまでもないです。探偵になったのは事件からは程遠い安全地帯から発せられる「無責任の善意」からくる推理で「無事だといいね」が最後の合言葉でした。

では、「ファイア・ドーム」は、この少年たちの失踪事件をモデルにしているのでしょうか?

いや、明らかに違います。

なぜなら、「ファイア・ドーム」は事件が起きる前の2023年8月号にSTORY BOX連載は終了しているからです。

小説「ファイア・ドーム」はネット上の炎上ではなく、地方の共同体での「噂」の燃え上がりを表現した人間の言葉による現実に近い小説です。

地方の噂は簡単に広がる

大体市の規模で人口10万人前後の地方都市であれば、顔を見ればどこどこ町の誰だれさんが分かる。

何か買い物をしていたら、「あの人あの場所で買い物してたわよ」とすぐに分かる。

下手なことはできない。

びぶーん
びぶーん

人口10万人都市に住んでいる私は、こんな質問をある市議会議員に聞いたことがあります。

「髪を切るときどこの美容室、床屋さんに行くんですか?」

答えは

「県外まで行って髪切ってくるんです」

でした。

あの市議会議員はこの美容室で髪を切っていると噂になれば心理的な負担もさることながら、次の選挙にも影響してくる。

地元の選挙区で通えば投票につながるかもしれないが、この美容室で髪を切っていると「噂」になれば、他の美容室はなぜうちに来ないのかと票を失う可能性もある。

上記の話は一例ですが、「噂」が力を持っている地方住まいの読者には「あ~!これあるある!」とあるある探しもできるほど成功に地方の人間関係を描けている小説だとも思いました。

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「ファイア・ドーム」あらすじ

25年前の夏、平穏だったはずの地方都市は、
百貨店受付嬢誘拐殺人事件の発生、
その報道により揺り動かされ、
「噂」という大量の炎が降り注ぎ、燃えさかった。
ようやく静けさを取り戻したかに見える町に
燻り続ける因縁が、いま新たな事件を呼び起こす――。

「もう言われてるよ!どうせ、親が殺したんだろうって!」
 言葉に怯み、気圧された。
 目を見開き、絵梨を見つめる。
赤い目で忠治を見つめ返す娘は、泣いてはいなかった。
「もう言われてる! 知ってる!
この家が、二度もこんな目に遭うのはおかしいって、
親や家族に絶対に何かあるって、みんな言ってる」
――本文より

舞台は北陸地方L県:架空の都市ではあるのものの新潟県と石川県を合わせた県がモデルだと思われます。

北地・中地・南地と県土を3分割した呼び方が一般的といえば下越地方(かえつ)中越地方(ちゅうえつ)上越地方(じょうえつ)と3分割された新潟県が土地柄として舞台なのだとイメージしてもらえれば読み進めやすいです。

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「ファイア・ドーム」のモデルは甲府信金OL誘拐殺人事件

「ファイア・ドーム」の物語の大筋は甲府信金OL誘拐殺人事件を参考にされています。

もちろん、甲府信金OL誘拐殺人事件をなぞっただけのものではなく、違う事件を含めて誰が犯人なのか?真実はどこにあるのか?というミステリー小説としても楽しめます。

甲府信金OL誘拐殺人事件とは?

甲府信金OL誘拐殺人事件 (こうふしんきんオーエルゆうかいさつじんじけん)は1993年(平成5年)8月10日に山梨県甲府市で発生した身代金目的誘拐殺人事件。

男M(当時38歳)が身代金を得る目的で、甲府信用金庫の女性職員A(当時19歳)を誘拐した上で殺害し、死体を富士川に遺棄した。Mは刑事裁判で死刑を求刑されたが、第一審(甲府地裁)・控訴審(東京高裁)とも無期懲役の判決を言い渡され、1996年(平成8年)に無期懲役が確定している。

被害者の判事に合った理由は、真面目に名札をつけていただけの被害者が当時デビューしたばかりの歌手・アイドルと同姓同名だったため、目についたことによってターゲットにして犯行に及んだとされています。

実際にあった事件をモデルにした小説

実際にあった事件に着想を得て執筆された小説は数多くあります。一例として以下をどうぞ

小説作者モデルになった事件
金閣寺三島由紀夫金閣寺放火事件
バター柚木麻子首都圏連続不審死事件
冷血トルーマン・カポーティクラッター一家殺害事件
悪人吉田修一福岡市東区女性会社員強盗殺人事件など複数事件を参考
共喰い田中慎弥山口県で起きた家庭内事件などを下敷きにしたとされる
レディ・ジョーカー高村薫グリコ・森永事件
半落ち横山秀夫実際の介護殺人事件を複数参考に創作
64(ロクヨン)横山秀夫足利事件や未解決誘拐事件などを参考
OUT桐野夏生当時の殺人・死体遺棄事件を複数参考に構成
模倣犯宮部みゆき女子高生コンクリート詰め殺人事件など平成の凶悪事件から着想

現実の事件をモデルにした小説は、「本当にこんな人がいた」「本当にこんなことが起きた」という事実が出発点になります。

そのため、作者は「なぜこの事件が起きたのか」を考え、人間の心理や社会背景を掘り下げることができます。

辻村深月さんによる「ファイア・ドーム」は、事件そのものではなく事件が起きたときの個人の人間心理、集団の心理に深く切り込んだ小説だと言えるでしょう。

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「ファイア・ドーム」の臨場感

「ファイア・ドーム」のすごさは、読んでいる小説と現実が臨場感を持って読み進めることができることです。

本を読むことで現在と過去をつなげて新たな未来へ向かうために「ヒト」とはどのような生き物か?を知ることができます。

心に残る素晴らしい小説は多いですが、失踪事件に対して臨場感を持って読める小説はそう多くはありません。

「ファイア・ドーム」は、どのような読者にとっても恒常的に起こる失踪事件に恐怖と不安をリンクさせて読めてしまう、「震えながら」読む傑作です。

今までに見聞きしたさまざまな事件を、思い浮かべずに読むことはできないです。

ネットの中傷や、何かを決めつけるような報道には嫌な気持ちになる方だと自分では思っているけれど、出どころのわからない情報やもっともらしい「考察」に「そうかも」と同意したことも誰もがあるでしょう。

真実よりも、自分がそうであってほしいと思う物語を信じやすい「ヒト」という人間である限り、誰もが「部外者」で居られることはないのだと感じます。

あの無責任に燃えた「炎上」にきっと自分もいたのだ。

まさにその火の粉がこちらへ向かって自分自身が「炎上」するまで傷つけられた人の思いを知ることはできないのだと思います。

そう考えずにいられないほど「ファイア・ドーム」は登場人物一人一人の気持ちを正確に描写していると読んでいて感じる。

びぶーん
びぶーん

個人的には、枝切りバサミを持って登場する新沼忠治に何度泣かされたことか!心理描写をしっかりすることで登場人物の発する言葉が重いのです!

読めば読むほど物語は読者が思った方向と違った方へ進んでいく。

読み始めて世界観に入り込んだら、途中で読むのをやめることはできないだろう。だからこそ、上下セットで入手することを、強くおすすめします。

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まとめ

「ファイア・ドーム」は、事件の真相を追うミステリーであると同時に、「噂」や「思い込み」が人を追い詰める過程を描いた人間ドラマでもあります。

実際の事件を思い起こさせるリアリティがありながら、決して特定の事件をなぞるだけではなく、人間心理や地方社会の空気を見事に描き切った作品です。

2巻で4000円と本が高くなってきていますが、自信を持っておすすめできる一冊なので、心理描写の深いミステリーが好きな方は、ぜひ上下巻を通して読んでみてください。

この記事を書いた人

bibroom

図書館司書資格保有|心理学専攻卒|元宝石店員|3児の父

働きながら通信大学で心理学を学び、 図書館司書の資格を取得。現在は3人の子育て中。 学び・教育分野の発信者。年間200冊以上の本を子どもたちと読み続けながら、 「本当に子どもの心に刺さる一冊」を探し続けています。 本のおすすめから司書を目指す人への情報、 エンタメ・エッセイまで人の心を動かすものすべてをテーマに執筆しています。

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