「ゲームの王国」で一躍注目を浴びた小川哲のデビュー作『ユートロニカのこちら側』を読了しました。
本作の舞台は日本ではなく、なんとアメリカ。しかも、近未来の“情報”を貨幣と換えて生活の全てが保証される実験都市「アガスティア・リゾート」。
理想郷(ユートピア)とも呼ばれるこの場所で、住人たちが向き合うのは、我々の想像を超えた「進化」と「未来」でした。

世界観が成田悠輔「22世紀の資本主義」を社会に落とし込んだかのないように読む前から興味津々でした!

成田悠輔さんってあの□―〇のイェール大学助教授の人よね。
お金がなくなる世界のベーシックインカム的ユートピア
ストーリーの核となるのは「個人情報」を全面的に企業(マイン社)へ提供することと引き換えに、住民たちは衣食住・健康・娯楽など、あらゆる生活保障を受け取る社会実験です。
現代の「お金のある人が幸せに、無い人は不幸せになる」時代へのカウンターとして、お金がなくなり情報こそが新たな価値になるという成田悠輔「22世紀の資本主義」を小説の形で問うています。
経済学者・成田悠輔が言う「お金の意味がなくなる社会」の先にある新しい資本主義像が、ここでは一つの仮説として小説世界に再構成されています。成田悠輔が「個人情報をアートークンとして新たな資産に」と説いたのに対して、小川哲は「情報の提供を通じてユートピア(=特定思想共同体)への入場資格」とし、人が価値観で選別される“理想郷”を描いています。
入れるのは「選ばれた人間」だけ。情報資本主義の差別性
ここにあるのは、既存の資本主義の「格差」と本質的に違いながら、やはり厳しい“選別”です。
お金の奴隷でなくなる代わりに、「正しい」思想や規範を持つことが求められ、逸脱者・異端者はユートピアに入ることすらできない。幸福な共同体を実現しても、そこには必ず「排除される誰か」が生まれる――この現実へ、鋭く問いを投げかけています。

共同体でいる限り「正しさ」が定義されて「秩序」を乱す異物は危険視扱いされます。

人類が繰り返してきたことをユートロニカのこちら側の実験でも繰り返しているのね。
一方、入園できた住人には完全な福祉・快楽や健康・安全が約束されるものの、四六時中監視され、あらゆる行動がアルゴリズムで最適化されて「幸せ」に導かれていきます。
そして、情報完全監視社会に順応する出来る人とできない人の差が生まれる。新たな格差の誕生です。
幸せの監視社会はなぜ“病む”のか?
人間は「お金」から解放されると、本当に幸せになれるのか?という問いがこの物語の芯です。
圧倒的な管理社会のなか、住民の中には「常に見られている」不安や、新たな抑圧による病理が生まれます。
自由と保障、幸福と管理、理想郷の皮を被ったディストピアの一角が、静かに物語を侵食していきます。
病理を患ったユートピアの住人はサナトリウムでカウンセリングを受けることもできます。医療もタダで受けられる代わりの代償は「アガスティアリゾート」への情報提供という神の目とも呼ぶべき存在への帰依でした。
人の幸せとはお金から自由になることでないとしたら、なんと定義できるのか?何から解放されれば幸福な自由を人間は手に入れられるのか?不自由があるからこそ自由という希望を見出して幸福を目指せる存在なのか?

人間の自由と幸福について考えさせられる本なのね!

何が幸せかは人によりますが、資本主義ではお金を持つ者が幸福であり続け、不幸なものは不幸であり続けるという現代への嘲りとして「ユートロニカのこちら側」は書かれていると思います。
小川哲×成田悠輔 現代資本主義のアンチテーゼ
作家・小川哲は日本人ながら自然なアメリカンジョーク、知的好奇心をくすぐる仕掛け、洗練された文体と設定力で、凡百のSFとは一線を画しています。
もし「もう少しウェットな人間描写があれば」という欲が出るなら、それは彼に“人間味”よりも知的スリルを求める期待の現れでもあるでしょう。
成田悠輔さんも独創的な思考と未来を予見できる思想は他者に比肩することない考えをお持ちですが、どこか人に対してウェットになれないように思います。小川哲さんも頭の良い人材だからこその冷めた世の中への見方が、似ていて文体に表れています。事実は事実として描かれており、登場人物の情緒が湿り気を帯びていないように思います。
すべてをデータで見越して、外からくる問題を心で受け止める前に解決してしまう。そんな天才二人の資本主義への想いがシンクロした小説が「ユートロニカのこちら側」なのかなと思っています。
現代日本の巨大学歴社会・格差社会が問われる今、「お金」「情報」「幸福」「自由」を問い直す上で、本作は極めて現代的かつ示唆に富んだ“思考実験”です。
最後に──「ユートロニカのこちら側」をおすすめしたい人
- 今の資本主義がどこまで広がり、そして終焉するのかに興味がある人
- 個人情報=新しい貨幣の価値論にアンテナが立つ人
- 成田悠輔の22世紀資本主義論に興味がある人
- SF的なディストピア・ユートピア論が好きな人
- 現代社会への批評性に富んだ小説を求める人
「人間本来の自由」や「幸せ」を一緒に考えたい人へ、強くおすすめします。
お金の心配がいらなくなったとして、人生を監視されても、幸福だと言えますか?
(この記事は個人の感想・考察に基づいています。ぜひあなた自身も読んで、「ユートロニカ」の世界を体験してください!)
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