『アトミック・ブレイバー』感想・あらすじレビュー|呉勝浩が描く”格闘ゲームで世界を救う”ディストピア小説

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「お前が世界を救うんだ!」

アトミックブレイバーは映画「爆弾」の大ヒットで一躍人気作家となった呉勝浩先生の書下ろし長編小説です。

 世界同時多発テロから27年の月日が経った東京において平凡なサラリーマン生活を養生している堤下与太郎が「世界を救うために選ばれた。せっかく選ばれたならやるしかない」と自分の運命を受け入れて、世界を救うために、テレビゲーム「アトミックブレイバー5<略してアトブレ>」にてAIプレイヤーを倒して世界に殺意を広めるオルテガシステムを止めるコマンドを打つために立ち向かう小説。

読み始めた瞬間、確信しました。「この小説は万人受けしない」。

テーマがバーチャルで脳内変換できる世代と脳内変換できない人間が生まれてしまう格闘ゲーム「アトブレ」を脳内変換できる読者なら、エンタメ小説を楽しめること請け合いにもかかわらず、ゲームに親和性のない読者には伝わりづらいと思って読み続けました。

簡単に解説すると2009年に映画化された細田守監督の「サマーウォーズ」のような小説だなと思います。

ランダムに選ばれた一般人が最後人類を救うためにバーチャル世界で肉体の限界に挑み脳汁を出しながら、勇気を出して解決していく小説です。ただ、単なる「世界を救う系」の小説と違うのは、堤下与太郎と読者が最後シンクロして融合、読者が堤下与太郎で堤下与太郎が読者になっていく臨場感を味わえる小説だという感想を持ちました。

この小説を読みあ割った時に世界を救ったのは読者であるあなた自身だったいう斬新な切り口を持っていることも楽しみの一つになるでしょう。

この記事では呉勝浩先生の「アトミック・ブレイバー」がどのような物語なのか、あらすじを追って感想を述べます。

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「アトミック・ブレイバー」あらすじ

超管理社会の中でサラリーマンとして働く堤下与太郎は、独身生活の孤独や、豊かとは言えない暮らしぶりへの不満は多少抱えつつも、おだやかな日々を送っていた。ところがある日を境に日常が崩れ、やがて「格闘ゲームで世界を救う」という奇想天外なミッションの担い手となってしまう。果たして与太郎は、ヒーローになれるのか?

管理社会・ディストピアの世界観に惹かれた方は、村田沙耶香が描く[『消滅世界』が”気持ち悪い”を問いかける。衝撃と嫌悪の先にある真実とは?もどうぞ合わせて読んでみてください。常識が覆るような読書体験ができます。

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「アトミック・ブレイバー」みどころ

ディストピアの世界観

びぶーん
びぶーん

まず「アトミック・ブレイバー」の魅力となるのは、ディストピアの世界観ですね。

小型核爆弾が世界中の主要都市に落とされた同時多発テロ「VS(ヴァージン・スーサイド)」と、そこから加速した社会の再編成。

核爆弾が日本以外にも落ちた世界線が描かれた世界の解像度は、世界システムは壊れているけれどかろうじて持続している世界を書く描写が、登場人物の背景を面白くしています。

しぃしぃ
しぃしぃ

ハイテクやSFなどが好きな人にはこの世界観はたまらない没入感を与えてくれるでしょう。

 「この世界設定、現実の未来にもあるかも?」と感じた設定の一例を挙げると、電気代の高騰が加速して、電力が高級品のような扱いを受けていることですね。

日本に住んでいるとエアコンつけ放題、冷蔵庫入れっぱなしが当たり前で、スマホの充電も毎日できていますが、「アトミック・ブレイバー」の世界では、スマホの充電をするためにも「労働」が必要で時間を差し出さなければならない。

電気代の権威は高く、加速するIT技術、AI、宇宙開発に莫大な電気代を現在もコストとして払う現代の未来に起こり得る設定だと思いました。

主人公の与太郎はスマートフォンの充電をするため、出勤前の時間に汗を流して発電機のペダルを漕いでいます。夏と冬の「電気代が怖い」と怯えている私達にも想像しやすい未来です。私たちが何も改善せず過ごしていったら、もしかしたら、こんな未来になるのかもしれないと可能性すら感じました。

格闘ゲーム「アトブレ」

 また、バーチャルとリアル、双方の熱いバトルシーンが楽しめるのも本作のみどころです。

格闘ゲーム「アトミック・ブレイバー」は、ストリートファイター2にて脳内変換しました。

引用:ファミ通

「アトブレ」はもっとポリゴンの「鉄拳」的な感じかなとも思ったのですが、ストリートファイター2が想像しやすかったです。

しかも、相手は「AI」。

もはや囲碁や将棋の世界に置いてAIに勝てる人間が存在しないような超越した次元の階層で堤下与太郎は、に人間の限界を超えていきます。

勝てるのか勝てないのかは、本当に最後の方まで分からないので「どうせ勝てるだろう」と予想してはいるもののもしかして勝てずに、世界の人間は「殺意に満ちた世界」を生きなくてはならないかもとそわそわしながらラストまで疾走していきます。

主人公への共感

 中国では監視カメラが4億台設置されていると報道され、東京ではJRに乗るにはもう顔認証で支払われる世の中。

徹底的に監視・管理されている社会において、人間はまるで機械のように生活して、ほそぼそとルールを守った中で自由を探している。与太郎の住んでいる世界もこの社会の一員であり、争いごとを避ける性質が強い。

びぶーん
びぶーん

争いを避けて細々と生きてる与太郎に共感ですね。

 そんな与太郎が、命の危険を感じる体験をしたり、社会の枠からはじかれた人々と出会ったりすることで、やがて自ら「戦う」ことを決断できる人間へと成長していく。

「友情・努力・勝利」週刊少年ジャンプが掲げる信念を「アトミック・ブレイバー」の主人公与太郎も、生身の人間として受け止め「戦う」行為は「生きる」ことに直結する世界で順応していく読む楽しみもあります。

この物語は、与太郎が自身の「生」をつかみとっていく成長物語であると同時に、読者の再生の物語にもなり得ると感じました。

最終的に、読者と与太郎は合体することを述べておきます。少なくとも自分はそう感じました。

しぃしぃ
しぃしぃ

最後、読者と与太郎と女王が融合するのよね。これは私の錯覚かも知れないけど、「あえて」そう書いたんだと思う。

 SFエンタメ作品が好きな方、特にディストピアを舞台にした物語が好きな方には強く推薦できる一冊です。

また、著者の過去作を知る読者であれば、作品の振れ幅の広さ、引き出しの多さという観点で驚き、楽しめるでしょう。熱量の高い一冊を求める小説好きの方にも、ぜひ手に取ってほしいです。

熱量の高いエンタメ小説をもっと読みたい方には、辻村深月さんのファイア・ドーム 感想・書評|現実の事件と重なる恐怖、人間心理を描く辻村深月の傑作もおすすめです。

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印象に残った一言

「敗北だと感じたときが、勝利に一番近いときだ」

実は、まったく一緒の言葉かというとちょっとニュアンスが違うのですが、

与太郎の父親が、与太郎に対して残した言葉に上記の言葉がありました。

人は、うまくいかないことがあるとすぐにあきらめたり、努力しても成果が出ないともうやめようと「敗北」を感じて撤退しようとします。

撤退するんです。これ以上傷がつかないように、もう楽になるために「敗北」を認めようとします。

その「敗北」を感じ始めたときが「勝利」に一番近い時だと聞いたとき、まさに納得。

もう少し続けてみよう。一番勝利に近い位置にいるのに辞めるのはもったいないと思える良い言葉だなと感じました。

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まとめ

『アトミック・ブレイバー』は、格闘ゲーム「アトブレ」でAIに勝利することで世界を救うという突飛な設定でありながら、電気代が高騰し尽くした管理社会という、どこか現実の延長線上にあるようなディストピア世界観が読者を引き込む一冊でした。

バーチャルとリアルの境界が溶け合う熱いバトルシーンはもちろん、監視・管理された社会で生きる主人公・堤下与太郎が「戦う」ことを通じて自らの「生」をつかみ取っていく成長物語は、読み進めるうちに読者自身の物語としても重なっていきます。最後まで読み終えたとき、世界を救ったのは与太郎であると同時に、読者であるあなた自身だったと感じられるはずです。

「敗北だと感じたときが、勝利に一番近いときだ」という与太郎の父の言葉は、物語の枠を超えて、読者の心にも残るメッセージとなるでしょう。

SFやディストピア作品が好きな方、『爆弾』で呉勝浩を知った方はもちろん、格闘ゲームに親しみのある世代にはとくに刺さる一冊です。ぜひ手に取ってみてください。

SF小説をもっと読みたい方は「三体」の次に読むならこの本おすすめSF小説6選も、ジャンルを問わず次の一冊を探している方は「なんか面白い本ない?」の答えはこれ!今すぐ読みたくなる衝撃・感動・中毒性のある本10冊もぜひチェックしてみてください。

この記事を書いた人

bibroom

図書館司書資格保有|心理学専攻卒|元宝石店員|3児の父

働きながら通信大学で心理学を学び、 図書館司書の資格を取得。現在は3人の子育て中。 学び・教育分野の発信者。年間200冊以上の本を子どもたちと読み続けながら、 「本当に子どもの心に刺さる一冊」を探し続けています。 本のおすすめから司書を目指す人への情報、 エンタメ・エッセイまで人の心を動かすものすべてをテーマに執筆しています。

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