小川哲|陰謀論と信仰を描く『スメラミシング』

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小川哲の『スメラミシング』は、またもや彼の圧倒的な知性がほとばしる作品でした。

読んでいる最中はこれは凡人には概要しか理解できないなと「理解不能」な知的迷路に迷い込んだような感覚になるのに、読み終えた後には「なんとなく分かった気になる」。

まるで自分が賢くなったかのような、不思議な勘違いを味わわせてくれる小説でした。

びぶーん
びぶーん

小川哲の小説はどの作品も自分が賢くなった勘違いをして知的好奇心を満たしてくれる印象が強いです。

主に内容は「陰謀論」「信仰」という不確かなものをどのようにして確かなものにしていくかという物語だととらえました。

最後の「ちょっとした奇跡」だけは「これはラブストーリーだ」と思いましたが、ほとんどの作品は「神の証明」をどのようなアプローチで挑んでいくかという人類の悲願ともいうべき挑戦の物語です。

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『スメラミシング』6編の内容まとめ表

短編タイトル概要主なテーマ・キーワード
七十人の翻訳者たち古代文書の翻訳に携わる者たちの奇妙な運命。言葉と真実のズレ。陰謀、集団心理、解釈の危うさ
密林の殯アマゾンの奥地で行われる謎の儀式と失われた文明。信仰、死生観、自然と文明の対立
スメラミシング「スメラミ」とは何か。国家と陰謀、そして記号が持つ力。陰謀論、国家、虚構と現実の境界
神についての方程式超ひも理論が神の存在証明と交錯する講演形式の物語。科学と宗教、信仰、数学的真理
啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで知識と啓蒙がどこまで人類を導けるのか。啓蒙思想、陰謀、ポスト真実
ちょっとした奇跡フェイクムーンが地球に衝突し、自転が止まる。終末SFとラブストーリー。SF、運命、愛、有限な時間
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特に印象的だったのは『神についての方程式』

インドの「ゼロ」という思想から、科学によって存在をないものとされた神を科学によってどのように証明していくかという数学の公演は圧巻です。

超ひも理論という難解極まりないテーマを使いながら、「なぜ人は神を求めるのか」という普遍的な問いに数学的アプローチで迫る。

理解できたとは到底言えない。

それなのに、深いところでまるで自然と洗脳されてしまう様に「そうだ。そうなんだ!なるほど!」と心が納得してしまう。この公演は現段階において作家の中では小川哲しかできない講演内容だったと思います。

数学の公演ががすごいってひどく難解で読みにくいのではないかと思われそうですが、これは思想のプレゼンなので読んでいても言葉がスッと入ってくる。

納得感があり、「なるほど!神様ってそういうことなのか!!」と思わせてしまうから不思議。

しぃしぃ
しぃしぃ

私は神への方程式を読んでもさっぱりわからなかったわ。

びぶーん
びぶーん

実は僕も数学的部分は全く分からなかった。だけど神様ってこういうことなんだって言葉にできないけど納得できちゃうんだよね。

読んで内容は分からないのに納得するというのは「陰謀論」「信仰」などと共通したプロセスのような気もします。すべてを理解することはできないけれど概要に納得して信仰という到達地点へ向けた巡礼がはじまる過程ともいえるでしょう。

私には分からないことだけですが、確かなことは人間には何かを超越した存在であり、包み込んでくれる存在が必要であり、それの存在証明を言語化できる人間は個人から集団まで扇動できるようになるということでしょう。

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人の弱さゆえの強さ

物語全体を通じて浮かび上がるのは、「人は一人では生きられない」ということを常に突きつけられる。

生きるうえで「何か」につなぎ留められなければそこに存在することが出来ない。

単体では存在することが出来ないというのが人間の特徴なのかもしれないと思いました。

太古は自然と一体になり、次に神と共に生き、やがて科学がその役割を代替した。

しかし、科学の到達点で人は再び「神」を求め始める。

人間自体が神という存在を見つけることで個人の存在を維持することが出来る、そんな宇宙の仕組みがあるのではないかと考えさせられます。

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『ちょっとした奇跡』ロマンスSF小説

もし神から逃れて人間が生きるすべがあるとしたら、「ロマンティックラブ」恋愛でしょう。

神がいなくなったことによって上流階級は「恋愛」を至上のものとして扱いだしたきらいがあったように思います。

恋愛でこの世で唯一の人物と結ばれることですべてが幸福になる。すべてが報われる。それこそがすべてだと「恋愛」文化が発達したのは神がいなくなったこととは無関係ではない気がする。

「ちょっとした奇跡」では地球の自転が止まり世界が崩壊に向かう中、限られた時間を生きる人たちの小さな高揚感を物語として描かれている。

壮大なSF設定の中に、ロマンスは「人の存在理由」になり得るという普遍的なテーマが浮かび上がる。

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まとめ

『スメラミシング』は、単なるSFでもなければ、単なる短編集でもない。

これは人間と対となるものの詳細だと思いました。

SNS時代の陰謀論、科学、信仰、恋愛。

人間と対となるものの存在証明をすることは人間そのものを浮き彫りにすることが出来る。

小川哲の本を読んで思うのは、「自分は少し賢くなったのかもしれない」という錯覚だけれど、この錯覚さえ人間と対となるものの詳細に含まれていることを思えば小川哲にしてやられたのかもしれないなと思いました。

今回も壮大な知的エンタメ作品に贅沢も読まさせていただきました~。

ではでは~~。

最後までお読み下さりありがとうございました。

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