新書大賞3位、10万部突破となった大人気新書「福音派」ですが、難しすぎないでしょうか?本当に10万部も売れて10万人の人がこれを読んで「なるほど!」とすべて理解できる人はどれほどいるのか疑問です。
大学でアメリカ政治やキリスト教、宗教などを専攻してかなりアメリカ「福音派」の歴史に精通していなければすべてを解読することは不可能だと思います。理解できない一人に私も含まれています。そこで、「福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会 (中公新書 2873)」を分かりやすく、重要な部分だけ抜き取って、かみ砕いて解説します。

まず、著者紹介から!
著者プロフィール
1979年愛知県生まれ。立教大学教授。
米国に計15年滞在し、プリンストン神学大学院で博士号を取得した気鋭の宗教学者です。16歳の折、現地の家庭料理に誘われ福音派の布教を体験したことが研究の原点となりました。
学問の枠を超え、映画や音楽などのカルチャーを織り交ぜて「読ませる」文体に定評があり、TV出演時には「和製ジョニー・デップ」と評される端正な容姿も話題となりました。一方で、「宗教は人間の善も悪も拡大する虫眼鏡」と語り、理屈だけでなく共にワインを飲み、食事を囲むような血の通った繋がりを重んじる、情熱的で親しみやすい人柄。
「福音派」内容
ページ数は328p前半ほとんどが、福音派がどのようにでき、どのように宗教から政治に影響力を及ぼすようになったかを語っています。
本著によれば福音派の登場は1920年代ラジオ放送の創成期であると語ります。まだ、規制や制度も少なく政府による介入も少ない新しいメディアを使用して広がっていきました。

現代でいうSNSが出てきたから広がった思想みたいな感じでシンパシーありますよね。
1920年代「昔懐かしいリバイバルの時間」というラジオ番組にてアップテンポの讃美歌やリスナーからの心温まる手紙の朗読、ロサンゼルスの伝道師によるキリスト教信仰についての分かりやすい説教を放送していました。内容は「罪の悔い改め」とまじかに迫った「終末論」です。
「罪の悔い改め」とは?
「罪の悔い改め」とは、ただ「悪いことをした」と反省するだけではなく、「神から離れた生き方をやめ、神の方へ向きを変えること」を意味します。
福音派では、人は誰でも罪を持っており、自分の力だけでは完全には変われないと考えており、まったく罪のないイエスが十字架で死ぬことで、人間の罪の償いを代わりに引き受けたと考えることです。
まじかに迫った「終末論」とは?
福音派の「終末論」は、単なる“滅亡予言”ではなく、「最後に神の正義と救いが完成する」という希望の物語として語られます。
中心にいるのは再び現れるとされるイエス・キリストです。福音派では一般的に、次のような流れが語られます。
- キリストの再臨
将来、キリストが再び来る。これを「再臨」と呼びます。 - 患難の時代
戦争・混乱・迫害など大きな苦難の時代が来ると考える人も多いです。 - 最後の裁き
神が人々を裁き、善悪が明らかにされる。福音派では「キリストを信じるか」が重要視されます。 - 新しい世界
最終的に神が新しい天と地を作り、苦しみや死のない世界が完成するとされます。
特にアメリカの福音派では、ヨハネの黙示録をかなり重視し、現代の国際情勢を終末預言と結びつけて考える人もいます。たとえば中東情勢やイスラエルの動きを「終末のしるし」と見る考え方です。

世界各地で戦争が起こっているし、経済格差による弱者の生きづらさは地獄…ついこの間はコロナ禍という世界的な混乱もあった。苦難があれば終末論への救いを見出すのは人間の必定なのかもしれないわね。
1990年代カルチャーのノストラダムスの予言も終末論の一部だと言えるでしょう。キリスト教では終末を迎えるとキリストが再臨してキリスト教徒を救ってくれるので、早くみんなキリスト教徒になるんだ~~って布教活動を行っていたんですね。1920年代「昔懐かしいリバイバルの時間」というラジオ番組は1940年代まで続いて約2000万人の視聴者を獲得したみたいです。
1920年代~「昔懐かしいリバイバルの時間」を放送していたら、1942年に「全国福音派教会」がワシントンに設立されてこの教会の福音派という言葉が現在の福音派につながっていると言っています。
では、政治に影響力を持つようになったのはいつごろからなのでしょうか?

カギはキリスト教伝道師ビリー・グラハムにあり!
共産主義との対立軸で大人気!ビリー・グラハム!
本書ではビリー・グラハムについて大きくページを割いています。
1949年グラハムの初期の訴えは「神のメッセンジャー」として共産主義の脅威とともに戦おうというイベントでした。

グラハムさんは共産主義は経済圏の戦いだけではなく、宗教間の対立であるととらえて一般市民に訴えたわ。
「共産主義は、単に経済的な争いではない、共産主義は宗教である。それは全能の神にたたきを挑んだ悪魔によって鼓舞され、指導された宗教だ」
このように共産主義の台頭を恐れる民衆に語り掛けました。
ちょうどその時ソ連の核爆弾実験の成功を大統領が発表していたことや中国で共産党政権が成立したことも踏まえて全米の民が共産主義の脅威に怯えていたのです。資本主義、民主主義の国アメリカがソ連に負けてしまえば、自分たちも共産主義の暮らしをせざるを得ない。
つまりはキリスト教の教えに基づいた暮らしをすることが出来ないという恐れを民衆は抱いていたので、ビリー・グラハムのスピーチは、サタン、悪魔に唆されて共産主義に走った人間は退治しておかなければならないと考える民衆の心を打ったのです。

共産主義との戦いという時点で政治に片足突っ込んでいるといってもいいよね。
グラハムさらに、アメリカは内憂外患であると語り掛けます。
国内ではキリスト教や道徳が軽んじられており、国外においては悪魔の操る無神論者に共産主義がタケノコのごとく勃興している。今こそ人々はキリストの福音を受けいれて、悪魔との最終戦争に備えなければならない!
そんなグラハムのイベントは35万人の参加者を数えて影響力を増していったとあります。
はじめに「福音派」の人口が拡大し影響力を持つことになったのは共産主義への恐れや不安があったからなんですね。
人口が増えればその影響力に目を付けるのはホワイトハウス。政治家というものです。
政治への影響力の拡大
影響力を持つということは政治にも目を付けられることになる。
ホワイトハウスは権力や影響力に敏感です。その影響力と力に目を付けた政治ではアイゼンハワー大統領以降現在まで続いていると言えるでしょう。

なんたってアイゼンハワーさんに大統領にならんか?といったのはビリー・グラハムだという話です。
ビジネスで成功しているリーダーや資本家たちは反共産主義です。資本主義で甘い蜜を吸っているのに共産主義でみんな平等なんてなりたくないですもんね。
アイゼンハワーさん自身も福音派に気を使ってかこんな発言をしています。
「米国の政府の形態は、誠実な宗教的信仰に基づいていない限り、意味を持たない。ただ、それがどのような信仰であるかは気にしない」
宗教的信仰の影響を頼りにしてはいるもののそれが度の侵攻であるかは気にしないとしているのです。これは、アメリカが多宗教国家であるということの裏返しに、宗教的影響力をもって政策実現ないしは「大統領に俺はなる!」と高らかに宣言しているようなものです。
それからニクソン、カーター、レーガン、ブッシュ父、クリントン、ブッシュ、トランプまで事細かに本著では福音派がどのように政治に参加してきたか?と語られています。
終末論と陰謀論に興味がある方も
終末論と陰謀論に興味がある方もぜひ手に取ってください。
「世界は終わりを告げる」だからこそ今目覚めなけ得ればならない!といって終末論を振りかざし、人々を扇動するのは日本でも新興宗教として行われてきた事実がありますよね。
彼らは本当に終末、ハルマゲドンが来ると信じて疑わなかった。ハルマゲドンが来るぞと言ってなぜ人は信じてしまうのだろうか?本書はその答えの一端をのぞかせてくれるようにも思えました。
なぜ人は終末論や陰謀論を信じてしまうのか?と疑うことすらできないほど、大衆文化に浸透して数千万人のアメリカ人に受け入れられ、日常化していくその物語を真実といわずして嘘であると述べる力のなさを悔いるでしょう。
終末論や陰謀論はもう人々の生活に入り込んでいます。
立法や司法を組み替えて福音派ではアメリカを救うために終末を迎えることによってイエスが再臨し法を通して地上にイエスの家を構築することで最終的にイエスが帰還するという福音派の考え方が、戦争に色濃くでているのはイスラエル・パレスチナ問題にも色濃くでています。
人々の生活に直接影響のある姿に形を変えて生活に入り込んでいる。終末論者によると終末の直前に、世界は以前よりもはるかに悪い状態になると言います。終わるときには、救世主を語る不届きモノや戦争の騒ぎ、戦争の噂、飢餓や地震、不法がはびこり、キリスト教徒は憎まれると言います。この予言自体現代に着かえることもでき、終末が近いぞ。と思うには十分の材料がそろっているのではないでしょうか?

本当に終末論の終わりの始まりって現代に通じているわよね。
また、4hcanによって広まった陰謀論ですが、陰謀論の辛抱者には白人の福音派も多いと書いてあります。まず最悪の事態が人類に起こってその後覚醒し、最終的に救済が行われるというシナリオは終末論と変わりがなく、「福音派」のグローバル民衆化が陰謀論の普及だともいえるでしょう。
福音派を手に取って読むことで、アメリカの政治、2026年現在行われている戦争の背景、終末論と陰謀論とは何かを解像度高く見ることが出来ます。陰謀論が救済のカギとしたのはトランプ大統領です。トランプのとも関係の深かったポーラ・ホワイトをはじめとする新使徒運動の指導者たちは、2020年の大統領選挙での勝利を予言したと言います。
彼らにとってはトランプを世俗の闇から救い出してくれる存在だと信じて疑いません。
福音派は悪いのか?
根拠のない終末論や陰謀論を広めて良くない!とお思いのそこのあなた。でも実は福音派が悪いなんて一言も言えないのです。
1920年代では、工業化・都市化が進み、都市貧困や移民問題が広がる中で、教会による炊き出し・孤児支援・労働者支援として弱者に寄り添い、1930年代では世界恐慌の時代、失業者が急増し、多くの教会が無料食事、衣服配布、住居支援を実施している。特にアメリカにおいては、教会コミュニティが“最後のセーフティネット”になった地域もありました。
1940年代では第二次世界大戦と戦後復興の時代。共産主義、ファシズムとの戦いに不安な国民や戦争による戦争孤児、負傷兵、難民、未亡人支援が広がりました。日本でも戦後、多くのキリスト教団体が孤児院・学校・福祉施設に関わっています。
1950年代からも社会的強者ではなく、生きづらさを伴った弱者に寄り添うセーフティネットとして機能しているという点もここに書いておかなければならないでしょう。一概に善と悪で分けることなどできないのです。
もし、もっと「福音派」について知りたいなら加藤喜之著「福音派: 終末論に引き裂かれるアメリカ社会」は事細かにその詳細が書かれています。
まとめ
「福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会」は、「アメリカの宗教本」というより、現代アメリカ社会そのものを理解するための本でした。
なぜ福音派が巨大な影響力を持ったのか。
なぜ終末論が多くの人々を惹きつけるのか。
なぜ政治や陰謀論、戦争、トランプ支持とも結びついていくのか。
本書では、その背景を福音派が出来る前段から、1920年代のラジオ伝道、現代のSNS・陰謀論文化まで、歴史を追いながら丁寧に描いています。
アメリカ政治や宗教史の知識がないと読むのに苦戦する場面も多いと思います。しかし、「終末論」「陰謀論」「アメリカ政治」「トランプ現象」「イスラエル問題」などに少しでも興味がある人にとっては、非常に刺激的な一冊。
また、本書を読むと福音派を単純に「危険」「怖い」と切り捨てられないことも分かります。彼らは長年、貧困者や孤独な人々の支えとなり、教会コミュニティを通じて居場所や寄り添う人の温かさを与えてきた側面もあるからです。
だからこそ福音派は、単なる宗教ではなく、弱者の影響力の最大化とも呼ぶべき存在なのかも知れません。




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